保健所がコロナ禍でしている重大任務

都内のある保健所職員によると、電話をしてきた住民が、数日にわたる発熱や息苦しさなどの症状を訴えてきた場合、海外渡航歴や感染者との接触の有無、過去2週間の外食などの行動確認、マスク着用の有無などについて、詳細に聞き取っていくという。感染が疑われる場合は、PCR検査の予定を調整し、陽性者に対しては入院先の手配も整える。感染者が出た場合は濃厚接触者を特定し、1日1回ほど体調を確認。もし、感染が疑われる場合は検査をする準備も整えていく。

クラスター対策のうえで最も重要なのが「陽性者や濃厚接触者の聞き取り調査」といった任務。一人一人の詳細な行動を確認していくため、「誰と会った」「どこに行ったか」「どのくらいその場にいたか」など細かい質問に対して、丁寧に聞いていく。時間をかけた丁寧な聞き取りが必要になるが、「偏見などへの恐れ」「言ったら、相手に迷惑がかかるだろう」といった理由から、本当のことを言わなかったり、部分的に隠していたり、調査に協力的でない人も少なくないというのだ。「追跡調査のための電話に、若年層は出てくれない」(保健所職員)といった声も上がっている。

都内保健所の別の職員は、現状をこう語る。

「保健所は本当にギリギリの状態です。引退した保健師にもお願いして働いてもらっていますが、発熱した子どもを抱えた母親らが保健師を怒鳴り散らすケースが多発しています。最悪なのは、一部の開業医です。彼らは医療のプロであるにもかかわらず、国や学会の定めたガイドラインを一切読まずに、すべてを保健所に丸投げしてきます。」

保健所に勤める医師は、都内で100名に満たない。給与も低く不人気で次々と辞めていくという。

「感染の危険性が極めて高いPCRの検体摂取や、陽性反応の出た患者の輸送も保健所の役目になっていますが、その作業への特別手当は1日300円に満たない金額です」

視聴率目当ての保健所へのバッシング

実際、山梨県内の60代の陽性者が「副業がばれるのが怖かった」として、アルバイト先のコンビニエンスストアを隠していたり、静岡県内の60代の陽性者がスポーツクラブに通っていたりしたのを伝えていなかったりして、“隠蔽”に気付いた陽性者の関係者が保健所に連絡し、店側が慌てて消毒を行うケースもあった。

保健所から濃厚接触者と判断されると、14日間の健康観察の対象者となり、毎日の連絡も欠かせなくなる。つまり、「濃厚接触者」などを含めると、公表されている感染者の数十倍にあたる観察者への対応を、少ない人員でなんとかしている状態が続いているのだ。

膨大な業務のうえに、不安を抱えた地域住民からの電話が殺到。「PCR検査で確認したい」「感染していないか不安」など、国が示す「4日以上の風邪症状」などの目安を踏まえていない「感染が疑われる以外」の人からの電話が少なくない現状がある。

膨大な業務が職員にのしかかり、とてもではないが対応が追いついていない。「夜11時以降まで仕事も当たり前」(ある保健所職員)といった激務にもかかわらず、ワイドショーなどでは連日、

「保健所がテンプレ通りの対応しかしてくれない」
「保健所が検査をしてくれない」
「保健所がちゃんと聞き取りをして、対応してくれないから不信感しかない」
「電話を60回以上鳴らしてもつながらない。嫌がらせなのか……」

と煽り立て、視聴率目当ての保健所へのバッシングが毎日続く。ワイドショーに煽られた国民は保健所へのクレームを厳しくする。