元航空機メーカーが掲げる「0次安全」とは

「うちは航空機メーカーです。私はそう思っています」

そう語るのは樋渡穣。安全技術の開発一筋にやってきた男で、2008年から搭載されている同社独自の安全技術「アイサイト」に関わってきた。

「私だけでなく、入社してきた技術者のほとんどは車よりも飛行機を作りたくて入った人間です。そこが他の自動車会社とは違います。それに、飛行機って、落ちたら搭乗者の命が失われます。落ちない飛行機を作るのが我々というか中島飛行機の技術者の使命でした。それと同じ意識で僕らは自動車の安全を考えてきたのです」

彼は続ける。

「整理すると、うちの会社が考える安全の方法は四つです」

ひとつめはまず0次安全である。これは同社の造語だ。

一度、聞いただけではわからない言葉だが、つまりは車自体が安全の思想で成り立っているということだろう。同社の車は基本の骨格が安全を重視している。これもまた航空機の技術からきている。

隼などの戦闘機は前後左右から敵機が近づいてくるのを素早く感知しなければならなかった。そのために視界のきくように飛行機を設計している。

つまり、パイロットが乗る操縦席窓を大きく作るのが中島飛行機の伝統だった。

高さを変えられるヘッドライトを初めて搭載

その精神を受け継いで、スバル360は窓を大きく取り、ピラーを細くした。その思想を守り「窓を大きく」はそれ以後の車も採用している。

他社の車では車体の後部を高くするデザインがあるが、そうしたら後ろの視界が狭くなってしまう。スバルの車にはそういったデザインはない。

日本で初めて「デフロスター」(霜取り装置)を標準装備したのも同社だ。デフロスターがあれば視界がクリアになる。

加えて、高さを変えられるヘッドライトも同社が初めてだ。スバル360はバンパーに手を突っ込んで、ライトの高さを調整できるようにした。

これは荷物をたくさん積んだりして車体が重くなると、ライトの位置も低くなってしまうからだった。安全を考えると、前方を広く照らさなくてはならない。そこで、可変式ヘッドライトを考えたのである。

走る、曲がる、止まるの機能のすべてを安全に保つ

また、水平対向エンジンと四輪駆動も0次安全および、二つ目の方法であるアクティブセイフティ(走行安全)につながる安全な仕組みだ。

水平対向エンジンは左右対称で、しかも車の真ん中の低い位置にエンジン本体を置くことができる。

一般的な車が載せている直列エンジンは形自体が左右対称ではない。エンジンとはそれ自体が重いものだから、左右非対称のエンジンを車の真ん中に置いても、重心は中心線からずれてしまう。

左右対称の水平対向エンジンを載せていることは重心の安定につながり、そして重心の安定はアクティブセイフティにつながる。