しかし、たとえば電波の場合であれば金属ならば反応するけれど、段ボールなどの物体だと検知しないからぶつかってしまう。レーザービームは雪が降ると光が乱反射して狂いが生じる。

樋渡は「ちょっと難しい話ですけれど」と前置きしたうえで、アイサイト開発のきっかけを語った。

カメラの性能ではなく、30年超分のデータがすごい

「アイサイトは元々は1989年に開発した技術でした。物体を検知する技術ですけれど、エンジン内のガソリンと空気を混ぜた混合気の過流(渦巻き)を計測する時に使っていた技術の応用なんです。

過流の動きを調べる技術でした。透明なシリンダーを作って過流の動きを計測するために、ふたつの視点の映像データを作った。それを物体を検知する技術に転化させたのがアイサイトで、すでに30年以上の路上データを収集しています。どこよりも早くから数多くのデータを集めているから、アイサイトは物体の検知にすぐれている。だから止まります。

カメラの性能というよりも、30年以上にもわたる制御プログラムの豊富なデータが価値なんです。

また、アイサイトは前方の対象物を検知し、対象物との距離を測る技術でもある。ですから車線の中央を維持して運転をアシストすることもできる。

つまり、自動運転にも応用できる。実際、うちの車には自動でハンドルをコントロールする装置が付いています」

「当たり屋」を防ぐことは不可能に近い

ただし、問題がないわけではない。

アイサイトはカーナビのように後付けすることはできない。車両のブレーキシステムとつながっているので、新型のステレオカメラだけを取り付けることはできないのだ。

客からは「今乗っている車にアイサイトを付けたい」と言われることがある。だがこの問題について、今のところはどうにもならない。

また、アイサイトは「ぶつからない」システムではあるけれど、「ぶつかってきた」人や自転車には当たってしまう。わかりやすくいえば、どんなシステムでも「当たり屋」を防ぐことは不可能に近い。

車の前に身体を投げ出して、飛び込んできた人を検知して止まることができても、ぶつかってきた人間はケガをする。ぶつからない装置とはあくまでも、相手に悪意がない場合に通用するものだ。

飛び込んできた物体をよけたり、車体を急停止する装置が実現するのは遠い未来だと思われる。