自動運転、無人運転車を作らないワケ

さて、樋渡と同様に、技術開発に携わってきた部長の佐瀬秀幸は「うちは事故を減らすことが目的なんです」と主張する。

「スバルがやることは自動運転、無人運転ではありません。自動運転はある程度まではやれますけれど、それ以上を狙うとお金がかかって車両価格が高くなってしまう。それでは一般の人が買うことができません。

狙うのは量販価格で事故ゼロに近づく車です。世の中に走っている車がすべて自動運転になったら別ですけれど、スバルは今のところハンドルから手を放して運転できる車は作りません」

スバルの技術者は他社に比べて人数が少ない。自動運転、無人運転、スマホによる運転操作など、業界大手や新規参入企業が取り組もうとしている多くの開発目的を自社の技術陣だけで追うことはできない。

そういったこともあって、飛行機由来の安全、搭乗者の安全を第一の目標にしているところもある。

「安全」というコンセプトは見直されている

だが、彼らは長年にわたって、ずっとそれだけをやり続けてきた。だから、どこの企業よりも多くの路上の安全データを蓄積することができた。

野地秩嘉『スバル ヒコーキ野郎が創ったクルマ』(プレジデント社)
野地秩嘉『スバル ヒコーキ野郎が創ったクルマ』(プレジデント社)

これまで、クルマを買う人の尺度にしたのはスピードであり、デザインであり、荷物をどれくらい積めるかといったものだった。

だが、完全自動運転が目前に迫る現在になって「安全」というコンセプトは見直されている。

今、自動車を買う人が気にしているのは100キロを超える速度で巡行することではない。

事故を起こさない装置が付いているかどうか、操作が簡便なものであるかどうかが買うための動機になりつつあると言っていい。

ユーザーはもはやどういう車かを考えているわけではない。

どういうサービスをしてくれる車なのかを買うための尺度として判断している。

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