AI開発のための著作物データ収集は認められている
4.2 表現を享受しない利用とは?
「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」について定めた改正後の30条の4は概略以下のように定める。
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りでない。
① 著作物利用に係る技術開発・実用化の試験
② 情報解析
③ ①②のほか、人の知覚による認識を伴わない利用
2号に挙げられている「情報解析」はAI、IoT時代に重要な条文である。文化庁も「これにより、例えば、深層学習(ディープラーニング)の方法による人工知能の開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録するような場合も対象となるものと考えられる」としている。
具体例を挙げよう。2016年、オランダの美術館やデルフト工科大学のチームが、346点に及ぶレンブラントの全作品から深層学習のアルゴリズムによって作品の特徴を分析、作品に共通する題材を分離しもっとも一貫性のある題材を特定した作品を発表した。レンブラントの作品は著作権切れなどの理由で許諾は不要だが、この条項によって、存命中のアーティストの作品を許諾なしにAIによって分析し、そのアーティストの作風をまねた作品を創作することが可能になるわけである。
音楽も含めた表現文化も救うことができる
4.3 2018年改正法で高まる日本版フェアユースの必要性
今回の裁判でも、上記3の「聞かせることを目的とする演奏か」をめぐる争点で、音楽教室事業者は、練習のための演奏はこの「表現を享受しない利用」にあたると主張したが、地裁は「音楽教室における演奏の目的が演奏技術の習得にあるとしても、同時に音楽の価値を享受する目的も併存しうる」として退けた。
日本版フェアユースが導入されれば、「やむを得ないと認められる場合」には表現を享受する利用も認められるので、今回のようなケースが救われる可能性が出てくる。効用はそれにとどまらず、音楽だけでなく文字も含めた表現文化の発展にも寄与できる。
政府がクールジャパン戦略を掲げてから久しいが、諸外国でも認められつつあるパロディも日本ではいまだに合法化されていない。合法化について検討した文化審議会著作権分科会「法制問題小委員会」のパロディワーキングチームが、2013年3月にまとめた報告書でも、以下のように司法による解決が提言された。
表現を享受しない利用を認めた2018年改正後の30条の4の反対解釈で、表現を享受するパロディを解釈によって認める道は閉ざされた。このため、パロディを合法化するためにも日本版フェアユースが必要となる。
文化の発展に寄与するという著作権法の目的に沿った日本版フェアユースの導入を今度こそ実現すべきである。