人体の防御システムはすごい

かぜの理解を進めるために、人体についての知識をもう少し詳しく書く。

人間の体は、24時間・365日、常に外敵の脅威にさらされている。ウイルス、細菌、気温、湿度、日光、食物に含まれる毒性のある物質……これらの“敵”を、完全にゼロにすることは絶対にできない。

ゼロどころか、私たちは常に、数百万、数千万の「敵になるかもしれないもの」に囲まれて暮らしている。でも案ずることはない。

生まれてこの方ずっとそうなのだ。あなた方はすでに、この過酷な環境をものともせずに、生きて暮らしている。これくらいの敵に取り囲まれている状態が「普通」なのである。

「世界はウイルスや細菌で満ちあふれている」

世界はそもそも、ウイルスや細菌で満ちあふれている。それがデフォルト。

必要以上に「除菌」を気にする必要はない。大事なのは、普通じゃない量(もしくは、種類)のウイルスや細菌に出会わないように気を付けること。そして、自分の体が敵を排除するシステムがきちんと働いていること。

人間の体は、生まれてからずっと、敵を排除して味方だけを取り込むシステムを発達させている。

たとえば鼻毛だ。空気中のホコリやチリ、さらにそこに含まれるウイルスや細菌をからめとって外に押し出す働きをもつ。きっとあなたも聞いたことがあるだろう。でも人体に敵が入ってくるのを防御する手段は鼻毛だけではない。

そもそも皮膚という皮が強烈な防御力を発揮している。お風呂に入っても水が侵入しない時点でとんでもなく高性能なバリアであることがわかるだろう。自然界に存在する、金属以外の多くは基本的に水が浸みるのだから、皮膚がいかにすごいかという話だ。

鼻毛、鼻水、胃酸……身体を守る頼れる守備隊

ほかにも鼻水をはじめとする粘液。鼻水でトラップされた外敵は、鼻をかむことで、あるいはくしゃみで吹き飛ばすことで、鼻水ごと体外に排出される。あるいは鼻からのどの奥を通って胃に流れ込んで、胃酸で倒される。

これらの幾重にもとりまく防御壁を突破したウイルスや細菌は、体の中に入ると今度
は多くの免疫……すなわち体内を守る守備隊によって攻撃を受ける。

つまり、体の周りに存在する無数の敵は、まずそう簡単には体内に侵入できないし、もし侵入しても防御側の総攻撃によって倒されてしまうことがほとんどなのである。あらゆる生命は、生き続けている限り、この敵を打ち倒すシステムを常時フル稼働させている。

その上で、なお防御をすり抜ける敵=病原体が、低確率で現れる。数々の防御を運良く(悪く?)かいくぐったウイルスが、体内で勢力を拡大しようとする。これがかぜの正体だ。