病気を見極めるには時間経過が必要不可欠

(1)はお手軽な判断基準だ。症状が複数の箇所に及ぶかどうか、というのは確認がしやすい。ただ、意外と医療者以外の人は知らない。

これに対し、(2)はなんだか手遅れ感がある。「黙って見ていて悪くなったらかぜではない」なんて、ひどい!

でもこれこそが医療の本質である。病気を見極めるには時間経過が命だ。そして、未来は決して100パーセント予測できるものではない。

時間をかけて見てみないとわからない部分が必ず存在する。

自力で治る(かぜ)自力で治せない(肺炎)
イラスト=うてのての

かぜはまさに、「時間経過を加味しなければ診断できない病気」の代表である。原因となるウイルスが複数あるために、○○ウイルスが原因なら絶対かぜだ、といった定性的な一本道診断は不可能。

たんを採ろうが、血液を採ろうが、CTを撮ろうが、わからないときはわからない。診察室にいる瞬間だけの判断で「かぜである」と診察しきることは難しい。

ほとんどのかぜは診察室で予測ができる

こう書くと、なんだか現代医学もあてにならないなあ、と思うことだろう。でも、もう少し話を聞いてほしい。

実際には、ほとんどのかぜ(放っておけば治る軽度のウイルス感染症)は、診察室で「かぜでしょう」と予測が可能である。決定ではないのだが、かなり精度の高い予測ができる。その感覚は天気予報に近い。

人の体調にしても、天気予報にしても、今から1週間以内に起こることはわりと正しく予測できる。2週間後とか1カ月後の天気は当たらないことが多いが、これから3日間の予報が外れることはめったにない。

今日から3日間はたぶん雨が降るでしょう、と言われるのと、今日から3日くらい鼻水が続いて治るでしょう、と言われるのは、構造的にはかなりそっくりだと思う。どちらも基本的に当たる。

ただし、本当に雨が降り続いたか、本当にかぜだったか否かは、3日経ってみないとわからない。

このことを医者はよくわかっているから、降水確率が40パーセントくらいのときに念のため折りたたみ傘をカバンに入れてでかけるような気持ちで、患者に対して「かぜだと思いますが、悪化したらもう一度病院に来てください」と言う。

最も疑わしい確率にベットしておき、確率は低いがそれよりも一段悪い状況に備えておくのだ。