なぜ医者は「様子を見ましょう」といって、さっさと本格的な治療に移らないのか。病理医の市原真氏は「患者からすると不安が増幅されるかもしれないが、決して怠慢ではない。一部の病気は、本質的に、時間をかけないとわからない。医療とは詰将棋のようなものだ」という――。

※本稿は、市原真『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

Doctors discussing with senior man while using digital tablet
写真=iStock.com/Nikada
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時間をかけない限り正解にたどり着かない

患者が病気であると診断することは、「未来を予測し、備えて行動をすること」である。

たとえば今、痛みや苦しみがあるとして、それが将来消えてなくなると予測できれば、治療をしなくていいという行動を選択できる。

あるいは逆に、痛みがどんどん強くなるだろうとか、苦しみの先に生命の危機があるだろうと予測するならば、診断はとりあえず後回しにしてでも早く処置をする。

これらはいずれも、「すぐわかる病気」に対する対処であり、「すぐ動いた」例である。

では、逆に、「なかなかわからない病気」に対しては、医療はどう対処しているのか。まず、医者目線から話をしよう。

一部の病気は、本質的に、時間をかけないとわからない。一握りの有能な医者ならすぐわかる、という意味ではなく、どんな医者がみても、時間をかけない限り正解にたどり着かない病気があるのだ。