一度も会ったことがない相手との仕事
コンテンツ制作の多重下請け構造は今に始まった話ではないし、その是非を問いたいわけでもないのだが、どうしても関わる人が多くなるのは事実だ。クライアント企業の正社員、子会社の正社員とは会議で定期的に顔を合わせるが、子会社の契約社員はプロジェクト立ち上げ時に一度会っただけ、孫請け制作会社のスタッフや他のフリーランスに至っては会ったこともない、という事態は往々にして起こる。
そうなると互いに何者かわからないため、メールのやり取りにしてもまったく心が通わないものになる。たとえば、私が原稿を送り、相手が最終確認をしてネットに公開する、という業務フローだとしよう。相手が私のミスを見つけたり、私に寄せられた相手からのオーダーがあまりにも的外れだったりすると、互いに「何こいつ、バカじゃねーの、チッ」と思い合っている状況に陥る可能性が高くなる。相手からメールが届くだけで「どうせまた、ろくな連絡じゃないんだろ……」と思うようになり、仕事に楽しさが見いだせず、凡庸なアウトプットしか生み出せなくなる。
相手を思いやる気持ちが仕事の質を変える
一方、過去に直接会ったことがあり、互いに顔も知っていたとしよう。それだけで、相手に対して抱く感情は変わってくる。さらにもう一歩進んで、互いの趣味嗜好や生活状況を知っていたなら、相手のことを慮る気持ちすら湧いてくるものだ。たとえば、シングルマザーで元夫が子どもの養育費を送ってくれず生活が大変であるとか、闘病生活から復帰したばかりでまだ仕事の感覚が戻っていないとか、釣りが趣味で次の週末は友人とアウトドアで過ごす約束をしているとか、一見気難しそうに見えるが実は愛猫家で気の優しい人物であるとか、親の介護をしながら仕事をしており定時に必ず退社しなければならないとか、相手の素顔をほんの少しでも知っていたら、人間関係にも深みが生まれてくる。
相手を思いやる気持ちは、確実に仕事の質を変える。当然、メールのコミュニケーションも変わり、「修正に関するオーダーを送りました。ご対応ください」「オーダー通りに対応しました。ご確認ください」的な定型文だけの無味乾燥なやり取りにはならない。よりよいアウトプットにつなげるにはどうすべきかを考えるようになり、相手の業務が進めやすいように配慮する姿勢が自然と持てるようになる。その結果、前向きなメールのやり取りができるようになれば、リモートワークのやりやすさは格段に向上する。