「復権を目指しているのでは?」と聞くと……
――コーポレートガバナンスの重要性に気づいたということは分かりました。しかし株主提案でご自身も名前を連ねている。詰まるところ復権を目指しているのではないですか。
「ちゃうちゃう。会長を辞めてから2年がたつけれど、社員や取引先企業から『積水ハウスがどんどんおかしくなっている』という声が寄せられていて、心を痛めとった。そうした時に(和田氏とともに株主提案で取締役候補に名前を連ねている)勝呂くんから『いま立ち上がらないと、会社がおかしなことになる』と言われた。今年の1月やったかな。その勝呂くんが『取締役候補の数が足りないので入ってくれないか』というので、『ええよ』と言っただけ。復権なんてさらさら考えてへんわ。若杉先生の弟子になるつもりやし」
コーポレートガバナンス改革の礎になると言いながら、その実、何もしていない経営者を何人も見てきた立場からすると、和田氏の改心は本当なのだろうかという疑いは消えない。すでに一度経営から身を引いており、固辞する選択肢もあったはずだが「ブレイディさんや若杉先生から教わったことを実践してみようと思って引き受けることにした」と、あくまで組織の浄化が目的だという。そこでこんなことを聞いてみた。
「『逆襲だ』と言われてもやめない」
――株主提案が多くの賛同を得て和田さんたちが取締役に復帰したら、積水ハウスはコーポレートガバナンス改革を積極的に進めるでしょう。しかし、仮に賛同を得られなかったら和田さんはどうするのですか。それでもコーポレートガバナンス改革の必要性を訴え続け、例えば若杉先生の活動にポケットマネーを出すつもりはありますか?
「当たり前やないですか。僕は取締役に復帰するためにコーポレートガバナンスの重要性を唱えているんやない。今度の株主総会で負けたら『はい知りません』なんてできる訳がない。そんなことをしたらブレイディさんたちに申し訳が立ちませんから」
「もうやめとき。何を言っても『逆襲だ、復讐だ』と言われるだけなんやから」。和田氏は奥さんにそう言われているという。しかし「この戦いはやめられない。この歳になって僕は生まれ変わろうと思っているのやから」。教授の活動に拠出するポケットマネーの具体的な金額については明言しなかったが、かつての絶対君主は、どうやら「コーポレートガバナンス教」の信者になったようである。