和田氏が語ったねらいとは
「今の積水ハウスのガバナンス不全は明らか。体制刷新をするしかない」。和田氏らは株主提案をした後の2月17日に開いた記者会見で、そう主張した。
正直言って違和感がある。先述したが和田氏は社長を10年、会長を10年続けた積水ハウスの絶対君主だった人。おそらく在職中にはコーポレートガバナンスなどそっちのけの経営をしていたに違いない。その人が「今の積水ハウスはガバナンスがなっていない」と叫んでも、それは復権を目指した方便でしかないような気がする。
そこで和田氏本人を直撃、疑問をぶつけてみることにした。
インタビューに応じると言って都内のとある会議室に現れた和田氏は「まだお昼を食べてませんのや」と言い、自分で買ってきたというコンビニ弁当を目の前で広げた。「すまんけれど、食べながらでいいですか?」。そういう和田氏に「こちらこそお忙しいところすみません」などと返しながら単刀直入に聞いた。
――和田さんは積水ハウスの「天皇」として、ご自身の一存で会社を動かしていた。その人がここにきてコーポレートガバナンスは大事だと言っても信じる人は少ないのではないですか。
コンビニ弁当を食べながら聞いていた和田氏は箸を止め、穏やかな顔で少しびっくりするほど率直に話し始めた。
「会社は誰のものか」を深く考えるようになった
「いま世間でESGって言いますやろ。僕が社長や会長だった時にE(環境)とS(社会)は頑張ったんやけど、G(ガバナンス)は、いま思えばあかんかったかもしらんね。ガバナンスは大事やと口では言っとったけど、本当のところが分かってへんかった。だから(コーポレートガバナンスを専門とする)若杉先生の弟子になろうと思ったんや」
なぜ心変わりしたのか詳しく聞くと、和田氏はこんなことを言い出した。1年ほど前、米国に遊びに行った。そこで知人の紹介で米レーガン政権とその後のパパ・ブッシュ政権で財務長官を務めたニコラス・ブレイディ財務長官の子息であり、米チャート・グループ会長兼CEOのクリストファー・ダグラス・ブレイディ氏に会った。場所はブレイディ氏の自宅であるニュージャージー州の農場だ。
「ブレイディさんはいろいろ話してくれたけれど、中でも印象に残ったのは『海外から日本に投資資金が思うように入ってこない原因の一つは、コーポレートガバナンスが未熟だからです』という話。そう言われて会社は誰のものかということを深く考えるようになった。株式会社は株主から『頼んまっせ』と言われて経営するもんやということがこの歳になって身に染みた。面白いもんやね。仕事漬けだった会長を辞めて頭に余裕ができていた。そこにブレイディさんの話が入ってくるもんやから、ものすごい勢いで吸収したわ」
帰国後、和田氏はこれまた人の紹介で若杉名誉教授と面会し、コーポレートガバナンスに目覚めたのだという。