海外の「クリエイティブクラス」と違うことへの危機感

——ワークショップにはどんな人が参加しているのですか。

たとえば僧侶の方がいます。彼は檀家のコミュニティがなくなりつつある中で、これからの仏教はどこにポジティブな居場所を見つければいいのか、あるいはお寺というインフラが地域社会でどう位置付けられるのかを考え、発信したいと思って参加しています。

他にはプロのバスケットボール選手がいます。彼は競技スポーツのノウハウを、ランニングやヨガといったライフスタイルスポーツに活かすことでもっと生活の中で楽しめるようにしていくことを考えています。それが結果的に競技スポーツとしてのバスケットボールの普及につながる、と話していました。彼は引退後のセカンドキャリアとして、アスリートのマネジメント会社を起業することを考えているらしいのですが、そのためにもメッセージの発信が重要だと考えた。そんな動機から参加している人もいます。

大企業の社員や役人も多いです。僕のメディアにたどり着くくらいなので、社会や文化に対するアンテナが高く、読書習慣もある。ところが自分たちが所属する組織は旧態依然としていて、組織的にも構造的にもワークスタイル的にもグローバルなクリエイティブクラスとはかけ離れている。そこに危機感をもっている人が多いですね。

起業や転職をしないで「世の中」を変える方法はある

とはいえ、彼ら彼女らは、起業したり外資に転職したりするのはちょっと違うなと思っている。そして今の組織に所属したまま、どうやって内側から変えればいいのか、あるいは2枚目や3枚目の名刺を持って自分の知見を世の中に役立てていくにはどうすればいいのかを考えています。

起業や転職を選択しないのは勇気がないからだとののしる人もいるかもしれませんが、僕はそういう生き方があっていいと思うし、うちのメンバーは割とこういう堅実なタイプが多いですね。

だから僕なんかより、だいぶ真面目な人たちなんです。僕自身はかなりいい加減な人間で、若い頃に社会から半分ドロップアウトした人間が自分でメディアをつくったらこうなった、みたいな経歴の持ち主なのですが、メンバーは地に足のついた生活をしている人が多くて。

そのまっとうさに戸惑うこともありますが、そんな人たちが僕の取り組みを評価し、ついてきてくれるという事実は大事にしたいし、この人たちの期待やニーズに応えたい。それが「遅いインターネット」計画を始めた一番大きな動機かもしれないですね。

(構成=塚田 有香)
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