「1日で10万人」より「10年で10万人」に読んでほしい

——「遅いインターネット」計画は、拡大を目指した運動ではないということですね。

もちろん僕たちの記事はたくさんの人に読んでもらいたい。でも瞬間最大風速を吹かせようとすれば、距離感がおかしくなってしまう。重視しているのは、空間的な広がりより時間的な広がりです。1日で10万人に読まれるよりも、10年で同じ数の人に読んでもらったほうがいいと考えています。

そもそも僕らがこの計画を始めたからといって、いきなり0が1になるように世の中が変わるとは思っていません。これを何年も続けていく中でじわじわと効果が出ればいいし、それくらい時間をかけて試行錯誤しないと社会に爪痕を残すことなんてできないはずです。PLANETSのような小さなユニットでもこれくらいやれるんだと5年10年の単位で証明することに意味がある。そうすると必ず後に続く若い人たちがたくさん出てくるはずで、それくらい腰を落ち着けて取り組まないと結局は何も変わらないと思っています。

——手応えは感じていますか。

参加者の熱意を感じています。プロの物書きになりたいとか、インフルエンサーになりたいという人は基本的にはあまりいないんです。大半の参加者は、自分という一個人として、あるいは一職業人として、インターネットで発信することで自分の可能性を広げようとしている。そのニーズは僕が思っているよりずっと大きかった。それはすごく勇気が持てることでした。

「芸能人の不倫はありか、なしか」を論じても意味がない

世の中のほとんどの人は発信することで愚かになっています。たとえばタイムラインの潮目を読んで、目立ちすぎた人や、失敗した人に石を投げる人は多い。このタイプはそうやって不倫をした芸能人のような生贄に石を投げることで、自分はまともだと安心したがるわけです。でも、そんなことをしても、自分のショボい人生を一瞬忘れることができるだけですよね。そしてそんな安直な発信の快楽を貪っていると、どんどん考える力を失ってしまう。単に「いまならこいつに、この文脈で石を投げられる」という潮目を読むことしかできなくなって、問題そのものが考えられなくなる。そのことに疑問を持たない人たちが多すぎる。

宇野常寛さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

そうした人たちの中にも、本当は自分の発信によってゼロから価値を創り出したいと思っている人は少なくないはずなんです。他人の発言の揚げ足をとるのではなく、自分の考えや経験を言語化することで能動的に世の中に接続したいという気持ちは多くの人が持っている。

だからタイムラインの「イエス/ノー」に乗るのではなく、自分自身で問題を設定し、価値ある発信をするためのノウハウを僕らが伝えることで、そういった人々の欲望にも応えられるんじゃないかと思っています。

こうしたノウハウを学ぶことか、結果的にプラットフォームに支配され、促されるままに安易な発信を繰り返すだけの状態から、自分の意思で情報への距離感や進入角度を設定てきる状態に移行することにつながると思うんです。