せっかく育てたのにふざけるな

あるときキヤノンUSAで、米国人のとても優秀な社員がいて「そろそろマネジャーにしよう」と考えていたとき、転職すると言われたことがあります。私のところへきて「御手洗さん、ありがとう。あなたが鍛えてくれたおかげで、いい会社に引き抜かれました」と言うのです。せっかく育てたのにふざけるなと怒りをおぼえていました。

しかし、社長をやって10年経った頃にようやく、心から「コングラチュレーション!」と握手できるようになった。彼らは、杓子定規にありがとうと言っているのではなく、心の底から会社、キヤノンに感謝しているんだとわかったのです。人材の流動性が高くても、自分を育ててくれた会社には感謝する。彼らが、会社を辞めてもキヤノンを愛していることに変わりはないと気付くことができたのです。

私は米国市場の経験が長いので、経営手法も米国流だと勘違いされることも多いのですが、日本と米国では社会や企業の成り立ちがまるで違います。そういうビジネス観を育むことができたのも、30歳で米国市場へ勇気を持って飛び込んだおかげ。いまの若い世代にもそうやって幅広い経験を積んでもらいたいですね。

(構成=伊田欣司 撮影=的野弘路)
【関連記事】
アメリカ人が理解できないイラン人と日本人の意外な共通点
ジム・ロジャーズ「2020年から世界中の景気が悪くなる」
社員9割外国人、武田薬品社長から見た「日本人」の長所と短所
この15年で130万人の営業マンが消滅したワケ
仕事を部下に「丸投げする」上司と「信頼して任せる」上司はどこが一番違うのか