子供の頃に熱中したスポーツは、人格形成に大きな影響を与えているのではないか。集団競技か、個人競技か。ポジション、プレースタイル、ライバルの有無……。ノンフィクション作家の田崎健太氏は、そんな仮説を立て、「SID(スポーツ・アイデンティティ)」という概念を提唱している。この連載では田崎氏の豊富な取材経験から、SIDの存在を考察していく。第6回は「ラグビー」について——。
3位決定戦・ニュージーランド-ウェールズ。健闘をたたえ合うウェールズ(赤いユニホーム)とニュージーランドの選手=2019年11月1日、東京スタジアム
写真=時事通信フォト
3位決定戦・ニュージーランド対ウェールズ。健闘をたたえ合うウェールズ(赤いユニホーム)とニュージーランドの選手=2019年11月1日、東京スタジアム

練習を離れても、誰かが落ち込んでいるのを察する

ラグビーは、組織と最も親和性の高いスポーツの一つである。

ラグビー日本代表だった平尾剛は、思想家である内田樹との対談本『ぼくらの身体修行論』(朝日新聞出版)の中で、ラグビーのポジションを二つに分類している。

〈身体の大きさを前面に押し出してがつがつひとにぶち当たるのがフォワードと呼ばれるポジションで、いわゆるスクラムを組む人たちのこと。バックスは、パスを交えながら相手をステップでかわしたりして、ぶつかるよりも走ることを得意とする人たちです〉

それぞれが躯を近づけてスクラムを組むためか、フォワードは結束力が固いのだと平尾は指摘する。彼の所属していた神戸製鋼ラグビー部には「フォワード会」という集まりがあり、彼らはシーズン中でも集まって酒を飲んでいたという。

さらに——。

〈スクラムの最前列で直接相手と組み合うポジションを称してフロントローと呼ぶのですが、そのひとたちだけで飲み食いする「フロントロー会」というのもありす。相手チームと直接身体をぶつけ合う同士がまとまっていなければ試合にはなりませんよね。他のチームも似たようなことをしていると聞いたことがあり、フォワードという特性を表しているよなあと、遠巻きに感心して見ていました〉

バックスである平尾はフォワード会に対抗して「バックス会」を結成したのだが、集まりの頻度は高くなかった。それはやはりポジションの特性——SIDが違うからだろう。

〈もろに身体を密着させて8人が組んで、押して押されて、どこか押されるとだれかにちょっとずつグッと負担がかかってくるから、みんなが一致団結することによって、その重圧を分散しながら受けとめているんだと思うんです。そういう日々のやりとりのなかで、お互いの調子とか体調がヴィヴィッドにわかるんでしょうね。だから、練習を離れても、だれかが落ち込んでいるのを察して、「おい、飲みに行こう」となる〉