子供の頃に熱中したスポーツは、人格形成に大きな影響を与えているのではないか。集団競技か、個人競技か。ポジション、プレースタイル、ライバルの有無……。ノンフィクション作家の田崎健太氏は、そんな仮説を立て、「SID(スポーツ・アイデンティティ)」という概念を提唱している。この連載では田崎氏の豊富な取材経験から、SIDの存在を考察していく。第1回は「野球の投手」について――。
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成功する投手は「わがまま、自分中心、楽天的」

球童 伊良部秀輝伝』(講談社)では、故・金田正一、やはり故人となった彼の弟である金田留広、八木沢荘八、オリオンズ時代の同僚である牛島和彦、小宮山悟、前田幸長、メジャーリーグ時代に同じ球団に所属した、吉井理人などの元投手に取材している。その後に上梓した『ドライチ』『ドラガイ』『ドラヨン』(いずれもカンゼン)では、大野豊を初めとした元投手に話を聞いた。

ある程度以上の結果を残した元投手は、みな適度に我が儘で、自分中心で、楽天的――ぼくの定義する投手のSIDを持っていた。もっとも分かりやすかったのは、もちろん金田正一である。彼は400勝という実績、そして球の速さに自信をもっていた。自分が一番であるということにこだわりがあった。そのプライドさえ立てておけば、ご機嫌だった。

その他、印象に残っているのは、ロッテオリオンズ、中日ドラゴンズ、読売ジャイアンツを渡り歩いた前田幸長である。前田は伊良部の懐に入った数少ない後輩だった。彼の話は、才能の多寡に加えて、プロで生き残る投手の資質を示唆していた。

オリオンズ時代、ゼネラルマネージャーの広岡、そして監督の江尻に伊良部が反抗していたときのことだ。ある夜、伊良部が先発した試合の後、前田と伊良部は夜の街に食事に出かけた。