子どもの運動は勉強の妨げになるのか。聖路加国際病院スポーツ総合医療センターの田崎篤副センター長は「毎日30分程度の有酸素運動は、脳を活性化させる。体力がつけば集中力も増すため、学力を上げる可能性が高い。ただし“長すぎる運動”には注意が必要だ」という――。
※本稿は、田崎篤『子どもの健全な成長のためのスポーツのすすめ スポーツをする子どもの父母に伝えたいこと』(岩崎書店)の一部を再編集したものです。
不健康な状態で生きる時間が伸びている
子どもの運動が肉体面にもたらすメリットをお話しするために、まず、おとなになった先のことに触れてみますね。
現代の日本は世界有数の長寿国です。世界のトップクラスであることはもちろんよいのですが、長寿がゆえに「寿命」と「健康に生活できる年数(健康寿命)」とのあいだに差が生まれています。スポーツの言葉でいえば「ミスマッチ」、つまり行きたいところに行けず、自分が望む行動が取れずに寿命が続く年数が生じているのです。ミスマッチは病気や体力、脳神経の衰え、骨の強度の低下などが原因となって引き起こされます。
2014年のデータなので少し古いのですが、日本人女性の平均寿命は87.14歳で、対する健康寿命は74.79歳。男性の平均寿命は80.98歳で、健康寿命は72.14歳。引き算すると、女性はだいたい12年、男性は9年ほど、健康上に何らかのトラブルを抱えながら、少なからず制限を抱えて生活することになるのです。これはけっこう長い年月ですよね。