池森会長は、14年秋に「5年後に売り上げ倍増」を目標に掲げ、攻めの経営に転じた。マスコミで話題になった「広告先行成長戦略」だ。広告宣伝費を3年間で150億円ほど上積みし、販売チャネルを拡大する。年商約800億円の会社が広告費に150億円とはまさに暴挙。当時、管理本部長だった島田和幸社長は、池森会長が言った「来期は大赤字になるけどワクワクするだろ!」の一言にゾッとしたと話す。

株主総会で一世一代の大勝負

失敗すれば倒産しかねない大勝負です。もちろん、株主にも賛同してもらわなくてはいけません。当社の株主総会は、6月の土日に横浜アリーナで開催され、5000人以上が参加する大イベントです。15年の総会では当然、この戦略に疑義の声が挙がりました。

19年8月に記者発表。島田和幸社長(左)、キリンHD磯崎功典社長(右)。(時事通信フォト=写真)

私は自ら手を挙げて立ち上がり、このまま手を打たず倒産してもいいのか、ファンケルを再建するにはこの戦略しかないと説明しました。そして「私の考えに反対される方は、手を挙げてください」と言いました。

広い会場が水を打ったように静まりかえり、誰も手を挙げません。「それでは、ご賛同いただいたものとして実施します」と宣言して着席しました。82年間の人生で、一世一代の大勝負だったと思える瞬間でした。

この戦略はみごとに当たり、当社はV字回復を果たします。インバウンド効果もあって、18年3月期は史上最高売上高を11年ぶりに更新、19年3月期は史上最高益を19年ぶりに更新しました。復帰前に450円前後だった株価も、現在は3000円前後を推移しています。

19年8月、当社はキリンHDと資本業務提携を結び、同社の持分法適用会社となりました。私が他社との提携を検討しはじめたのは18年のことです。理由は、私自身の年齢です。島田社長は信頼できる優秀な経営者ですが、いずれ会社を離れる日がきます。引退していた10年の業績低迷を考えると、自分が元気なうちに、将来にわたって社員が安心して働ける環境を整えておきたいという強い思いがありました。