カリスマ創業者が、後継者育成に失敗することは珍しくない。池森会長も10年の準備期間を設けながら、社内で次期社長を選ぶことはできなかった。会社の成長に合わせて人材も一緒に育つとは限らない。事業継承の難しさはそこにある。

「65歳で引退」の意見に共感

65歳になったら経営の第一線から退く――そう決意したのは55歳のときでした。ある新聞記者と話すなかで「経営者は老害にならないように、65歳ぐらいで引退したほうがいい」という意見を聞き、「そのとおりだ」と共感したのがきっかけでした。また、ダイエーの中内(功)さんが引退の時期を見誤ったことも1つの教訓でした。

本社ビル1Fにある直営店。カウンセリング販売は同社の原点。

私は社内報「はぁもにぃ」に、残り10年で後継者を育て心置きなくバトンタッチしたい、と書きました。そして「期待する後継者像」として、

①私と価値観が合っていること
②10年くらいは勤めて力量が見極められていること
③「才」と「徳」を兼ね備えていること
④上からも下からも人望があること
⑤複数の帽子をかぶれること、すなわち会社全体の利益を考えられること……

という条件を示しました。1992年1月のことです。

しかし10年後、社内にその5条件を満たす人材はいませんでした。後継者の育成に失敗したのです。

そこで次期社長をお願いしたのが、ローソンの藤原謙次会長(当時)でした。ダイエー取締役からローソンの社長となり、店舗数を増やした実績を買ったのです。

03年に藤原社長が就任し、私は代表取締役会長となりました。その後経営は藤原社長に全面的に任せ、私は名誉会長に退きました。経営陣から相談を受ければアドバイスする立場です。

社員たちには毎月「はぁもにぃ」を通じて創業者メッセージを伝えました。

成果を出した社員を褒めたり、大企業病が蔓延ってないかと警告したり、ファンケルについて私が思うところを率直に綴った連載です。

03年から18年までのメッセージは、19年、『企業存続のために知っておいてほしいこと』(PHP研究所)にまとめました。