ビジネスとは結局、人が営むものである 

<strong>遠藤 功●</strong>早稲田大学卒、米国ボストンカレッジ経営学修士。三菱電機などを経て現職。早稲田大学大学院教授兼任。著書に現場力3部作。
遠藤 功●早稲田大学卒、米国ボストンカレッジ経営学修士。三菱電機などを経て現職。早稲田大学大学院教授兼任。著書に現場力3部作。

経営者にとって最大の仕事は骨太の意思決定をすることである。混迷の時代といわれる昨今だからこそ、いかなる局面でもブレない「合理的な意思決定」をすることが大切なのだ。そのために、経営者に求められる大切な能力は人としての「胆力」、つまり腹が座っているかどうかである。優れた本は経営に携わるものに不可欠なこの2つを強くしてくれる。

そんな意味で、経営の合理性と理論的裏づけを学べる7冊と、ビジネスは結局のところ人が営んでいるものであることを再確認させてくれ、胆力を鍛えてくれる8冊を選んだ。

経営理論に関する1冊目は、『競争優位の戦略』。競争の原点を考えさせられる内容で私のバイブルでもある。ドラッカーの『イノベーションと起業家精神』は、新しいことにチャレンジすることの大切さと、イノベーションの真意がわかる。読むごとにチャレンジマインドが刺激される書である。『ビジョナリーカンパニー』と『コア・コンピタンス経営』は、経営ビジョンがいかに重要かを、世界のエクセレントカンパニーの事例を通して再確認させてくれる。特に『コア・コンピタンス経営』は、組織能力をどうつくっていくか、会社の目標をどう実現させていくかを考える際、ぜひとも手にとってほしい1冊だ。『トヨタ生産方式』は、モノづくりに関する本だが、「なぜと5回考える」など、すべての現場で大切な普遍な内容が詰まっている。

日本的経営や日本経済に精通していたアベグレンの著書『新・日本の経営』もお勧めだ。日本人の特性を見抜き、それこそが成長を支えてきた合理性なのだと改めてわかる。

また、『失敗の本質』は、ビジネスにつきものの失敗から我々は何を学べるのかということや、成功率を高めて失敗率を減らすために何が必要なのかを教えてくれる1冊だ。

さて、ここからは「人」に関する本を紹介したい。まずは『得手に帆あげて』。本田技研工業の創業者が「情熱」と「経験の知恵」を語る本だが、夢を追求することの素晴らしさと、ビジネスとは? 男の生き方とは? ということを考えさせられ、強く感銘を受けた1冊である。

同じく日本を代表する実業家に関する本で感銘を受けたのは、三井物産を経て、国鉄総裁になった石田禮助の生涯を描いた『粗にして野だが卑ではない』。リーダーの資質として必要なことが詰まった名著である。石田の日本人的な経営感覚には、実に教えられることが多い。『情緒と創造』の著者は数学者である。著者は、合理性の典型と思われがちな数学に対して「数学とは情緒だ」と言う。初めてこの本を読んだとき、経営も同じだと思った。数学も経営も結局は「情緒」すなわち「人」が生み、育てているものなのだ。