往時、日本企業の朝礼には、「ラジオ体操、社歌斉唱、トップの訓示」という、3つの定番メニューがあった。

人類の平和と幸福に寄与するなど、会社の基本方針を示した「綱領」「信条」を全員で唱和する。

人類の平和と幸福に寄与するなど、会社の基本方針を示した「綱領」「信条」を全員で唱和する。

そんな、一見、ノスタルジックな様式が今も残っているのが、ビジネス書の出版や政策提言活動で知られるPHP研究所の朝礼である。

PHP研究所では、毎朝8時30分になると、普及部(営業部)の部員が職場のフロアに起立して「朝会」が始まる(編集・出版部は10時に開始)。

内容はラジオ体操、社歌斉唱、会社の基本方針を示した「綱領」「信条」の唱和、そして連絡・確認事項を伝えるだけの短いものだ。まず全員でNHKの「ラジオ体操第一」で体をほぐす。ラジオ体操は真剣にやると、汗が噴き出るほどの運動量だ。毎朝、欠かさず体操すれば、健康の増進は間違いない。

その後は、社歌「毎日のことば」を斉唱する。若いビジネスマンのみなさんは「社歌? 何それ」と不審に思うかもしれないが、かつて、日本企業の大半は社歌を持ち、入社式、創立記念日といった行事では、必ず全員で歌っていた。昭和の高度成長期における社歌は、社員の士気を鼓舞する応援歌だったのである。

PHP研究所の社歌を作詞したのは松下電器(現パナソニック)およびPHP研究所を創業した松下幸之助とそのブレーンで、作曲者は平井康三郎。平井は「とんぼのめがね」「スキー」などで知られる音楽家である。

「天地の恵み 人皆の教を おおぎつつ 励しむところ 繁栄の道は いや啓けゆく……」。社歌を歌う社員たちの背筋は伸び、視線は上を向いていた。斉唱は姿勢を正す効果もあるのだ。近頃の朝礼では、やたらと絶叫したり、コント風の芝居をするといったパフォーマンス型も登場しているが、PHP研究所の朝礼には古き良き時代の香りが感じられる。

(尾関裕士=撮影)