過去10年にせしめた不正受給を全額返還せよ!

打ち合わせや接待に使った飲食費、「会議費」「交際費」は、すべて業務上の経費として税務申告できるかというと、そうではない。資本金が1億円超の企業では、交際費の損金算入は認められない。しかし資本金が1億円以下の企業では、年間400万円以下の交際費は、うち9割を経費として申告できる。

例外は飲食費で一人5000円以下なら資本金の大小にかかわらず、申請が可能だ(2006年度税制改正)。もちろんこれらを経費として認めるかどうかの判断は、税務署が各業務の実態に基づいて行うので、その使途を明確にしておく必要がある。

ではサラリーマンが使途を偽って、会社の金を個人の遊興費に回すとどうなるか。近年の判例では、行ってもいない海外出張の費用を会社から不正に受給した社員に、着服した金銭の返還命令が出された「三菱電機事件」(08年・図参照)がある。これは架空の旅費や外注費などを2年弱会社に請求し続け、1000万円以上を詐取。発覚後、本人は会社から懲戒解雇されたが、その処分を不服として提訴したものだ。判決は不正請求の金額が大きく、不正が長期にわたったため、悪質で常習性があったと判断、会社側の全面勝訴に終わった。

図:最近の判例では、会議費30万円着服、ゴルフ接待十数回でも「解雇までは酷」と判断!
図を拡大
図:最近の判例では、会議費30万円着服、ゴルフ接待十数回でも「解雇までは酷」と判断!

一方、同僚との飲食費を虚偽の申告によって受給した社員を解雇したのは厳しすぎるとした判例もある。「明治ドレスナー・アセットマネジメント事件」(06年・図参照)である。これは部長職にあった社員が、実態とは異なる申告によって会議費30万円を会社から不正に受け取ったことが発覚し、年俸1500万円を750万円に引き下げられ、後に普通解雇されたものだ。

同事案では、会議への出席者が実際より少ないといった、いわゆる「つけ回し」は認められたものの、飲食費の金額自体に虚偽はなく、また社内で認められている金額の範囲内であったため、裁判では年俸減額も解雇処分も重すぎるとして無効になった。

景気の悪化によって、会社側は経費の使途をより厳しく管理する傾向にあるが、不正を犯した社員に下す処分は、それが妥当であるかどうかを熟考したうえで行うべきだ。もともと経費の管理にルーズな職場で経費の不正受給があったとしても、常習性がなく金額も少なければ、それを理由にいきなり降格、減俸、解雇では処分が重すぎる。まずは本人に忠告を与え、企業風土そのものを健全化させることを考えるべきだ。

しかしながら、社員も経費の不正受給を甘くみてはいけない。経費の不正受給は民法上の不当利得(民法703条)に当たり、一度発覚すれば過去10年さかのぼって調べられ、その間懐に入れた分の返還義務が生じる。さらに不当請求に該当する場合は詐欺罪(刑法246条)に当たるケースもある。企業の営利を損なう行為は厳しく罰せられると肝に銘じたい。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=石田純子)