社内での携帯電話の充電は、窃盗罪になる!
「会社の備品は、会社に所有権(民法206条)がある」というのが大原則だ。従業員は、業務に必要な範囲で備品の使用を許されているにすぎない。
会社の備品は、社員同士で共用する物だけではない。ホチキスやメモ帳、電卓のように各従業員に支給されている物もある。個人への支給物は、それを所持して使用する占有権(民法180条)等の権利が個人に認められる。しかしながら、前出の所有権自体は会社にあるので「会社からもらった」などと勘違いしてはならない。
まず刑事罰の観点から説明すると、これらの備品を盗ってしまった場合、業務上横領罪(刑法253条)にあたり、10年以下の懲役が科せられる。例えば自分で買った仕事用の文具を会社に経費請求して認められた場合でも、会社支給の文具と同様に、会社の所有物になるので注意が必要だ。
しかし同じ電卓でも、隣の同僚に支給された電卓を盗んだ場合は異なる。自分が占有している物ではないので横領ではなく、窃盗罪(刑法235条)となり、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる。オフィスにある図書類やコピー用紙、印紙などを盗んだ場合も、同様だ。
意外なところでは、電気。これは財物とみなされる(刑法245条)ので、私用の携帯電話やiPodの充電を会社ですれば、電気の窃盗罪に問われる。
では、会社が捨てるつもりで社内に放置してある不要図書やCDなどはどうだろうか。これらを勝手に自分の物にすれば、たとえ会社の占有を離れたといえる状況であっても占有を離れた他人の物を横領したことで、遺失物等横領罪(刑法254条)が適用され、1年以下の懲役または10万円以下の罰金・科料となる。
お題の「『ちょっと家用に』……」の場合はどうか。備品を自宅に持ち帰っただけでは、仕事で必要だった可能性もあり、必ずしも盗んだとはいえない。だが、例えば備品の図書を古本屋に売却したり、他人にプレゼントしたりすれば、明らかにアウト。ただし、経費を請求して購入したペンやノートを家で「仕事でのみ」使用するならセーフ。あらぬ疑いをかけられたくなければ、業務上、備品を自宅に持ち帰る必要があるときは、上司に一言声をかけておこう。
では、民事上の責任はどうなのか。本人は損害賠償請求(民法709条・不法行為)の対象となり、時には上司も使用者責任(民法715条)を問われるケースもある。
また、社内的には懲戒処分の対象となる。切手や印紙などを大量に使い込んで懲戒解雇になった例もあるのだ(2008年に郵便事業会社で収入印紙20万円分を窃取したケース)。さらに上司も部下の管理監督不行き届き(管理監督義務違反)で処分されることも。上司として、部下の備品私用の見て見ぬふりは許されないのである。
※すべて雑誌掲載当時