NHKのスクープを受けて急いで発表した?

運転士から発光信号機が見えなかったのか、あるいは運転士のブレーキ操作が遅れたのか、複数の要因が、それぞれどの程度影響を与えたのかは運輸安全委員会の結論を待つとしても、この2点の改善は対策の方向性としては正しいだろう。しかし不可解なのは事故から2カ月というタイミングでの発表だ。

京急広報部は「現時点の対策がまとまったため」と説明するが、発光信号機の増設は方向性を示しただけで、どこに設置するかなど具体的な仕様は検討段階にあるという。しかし、その一方でブレーキ操作の規程改定は1カ月近く前の10月17日に実施済みだというのだ。

段階の異なる2つの対策を並べて「まとまった」とするのは、いかにもアンバランスなように思える。京急はなぜ、このタイミングで中間報告をしたのだろうか。

これは鉄道事業者で広報業務を担当した経験がある筆者の推測だが、京急の12日の発表は当初予定されていたものではなく、同日のNHKの報道を受けて急遽行われたものだったからではないだろうか。

この発表を巡る報道にはひとつの錯覚がある。同日の夕方から夜にかけて、NHKを含む各媒体が一斉に京急の「発表内容」を報じたため、多くの人は、その日のニュースの全てが京急の発表を受けて報じられたものだと思い込んでいる。

ところが、NHKの「京急『踏切の600m手前から信号見えず』当初の説明と異なる」と題したニュース(以下第1報)だけは、NHK NEWS WEB上に朝5時37分に掲載されているのだ。必然的にこのニュースは発表以前の取材によるものということになる。

マスコミが殺到し対応が後手に回っている

NHKは12日18時40分にも「京急『踏切の600m手前から信号見えず』再発防止策は?」という、よく似たタイトルの記事(以下第2報)を配信しているが、ふたつの記事を読み比べると、京急の中間発表は第1報と第2報の間に行われたということが読み解ける。

例えば第1報でNHKは、遠方発光信号機の設置場所を訂正前の340m地点と伝えている。ところが京急の発表を受けて配信された第2報では、信号の設置場所に関する記述が消えている。

また第1報の中で京急は「現在、対策は検討中なのでコメントは差し控える」と回答しているが、その日のうちに「現時点の対策」が発表されることになり、発表を受けて公開された第2報では「止まれなかったことを真摯に受け止め対策を積み重ねて安全を確保していきたい」とのコメントが掲載されている。

NHKは独自取材に基づく第1報で「京急の説明の誤り」をスクープし、その結果、京急にマスコミからの問い合わせが殺到することになった。そこで事実関係と経過を説明するために当日中に発表したと考えれば、再発防止策がアンバランスだったことも辻褄が合う。

このように、今回の事故をめぐる京急の対応は常に後手に回っている。そのせいなのか、中間報告にも歯切れの悪さが散見されるのだ。