正月にはさまざまなしきたりがある。そのひとつの「除夜の鐘」は、各寺が大晦日の夜に人間の煩悩の数とされる108回だけ鐘を撞くものだ。古くからあるしきたりのようだが、全国で撞かれるようになったのは昭和以降。きっかけはNHKのラジオ放送だった。宗教学者の島田裕巳氏が解説する――。

※本稿は、島田裕巳『神社で拍手を打つな!』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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年越しそば、紅白、初日の出、お雑煮……

現代では、大晦日には、年越しそばを食べながら、NHKの「紅白歌合戦」を見る、それに続けて、「ゆく年くる年」も見る。「ゆく年くる年」では、必ずどこかの寺の除夜の鐘が取り上げられる。その音を聞いて、耳をすましてみると、近くの寺でも除夜の鐘がかれている。

除夜の鐘を聞いたのを合図に、初詣に出かける人もいる。もちろん、年が明けてから、初詣をする人たちも多い。正月三箇日のあいだ、神社や寺院は、多くの初詣客を迎える。

元旦、早く起きた人は、初日の出を拝む。しっかりと拝むには、しかるべき場所に出かけていかなければならない。最近では、飛行機から初日の出を拝むイベントも行われるようになってきた。逆に、大晦日は遅くまで起きていたので、起きるのも遅くなったという人たちもいる。

どちらにしても、元旦には、雑煮やお節料理を食べ、屠蘇とそを酌み交わす。普通の酒を飲む人もいる。屠蘇気分で初詣に出かけたりもする。元日には、格別やることがない。年始回りというしきたりもあるが、最近では、昔ほど盛んではなくなっている。多くの人が初詣に出かけるのも、ほかにやることがないということも大きい。

二日になれば、朝からテレビをつけ、ずっと箱根駅伝の中継を見ている人もいる。駅伝は、途中でハプニングが起こることがあり、それが密かな楽しみだったりもする。皆、正月には毎年同じようなことをしている。初詣に行く先も、恒例の神社仏閣が決まっていたりする。