江ノ島にある児玉神社が競売にかけられている。祀られているのは、日露戦争で名を馳せた軍人・児玉源太郎だ。同じく軍人を祀っている乃木神社(東京)は盛況だ。なぜ明暗が分かれたのか。宗教社会学者の岡本亮輔さんは「近代以降に新たに創建された神社は氏子を持たず、何らかの形で経済基盤を獲得しなければならない。児玉神社はそれに失敗したのだろう」と分析する――。
神社が競売にかけられた
江ノ島(神奈川県藤沢市)にある神社が競売にかけられている。一般的な観光ルートからは少し外れた場所にある児玉神社だ。神社という宗教施設が競売にかけられることに驚く人は多いだろう。競売に至った経緯は不明だが、今年だけでも台風15号、19号で本殿の回廊が破損するなどの被害を受けており、その修繕だけでも多額の費用を要するはずだ。
しかし、より根本的なのは、今日、多くの神社が直面する経済基盤の問題ではないだろうか。児玉神社の祭神は、明治期の軍人・児玉源太郎(1852~1906)である。司馬遼太郎『坂の上の雲』などを通じて、近代日本が国運をかけて戦った日露戦争での児玉の活躍は知られている。児玉は参謀として戦略を立案し、奇跡的な勝利に貢献した。
日露戦争後間もなく児玉は亡くなるが、3回忌を機に墨田区向島に児玉神社が創建された。建立したのは政界のフィクサーで、作家・夢野久作の父としても知られる杉山茂丸(1864~1935)だ。親友を祀る神社を私邸の中に造り、一般にも公開したのである。