ビジネスとアートは大きく異なる
最近のアート教養ブームで、オフィスにアート作品を飾り、美術館やギャラリーに足を運ぶ経営者やビジネスパーソンが多くなったように思います。この流れは、アートの魅力を再確認するいい機会にもなっています。実際、知識、教養としてのアート以上に、アートを通じて自分を磨き、本来、人間が持つ感性や感覚といった自身のポテンシャルを引き出すことが大切で、自らの未知の可能性を引き出す方法につながります。
しかしながら、注意しておくべき点があります。アートやアーティストから学びを得られることは数多くありますが、基本的には、ビジネスとアートは大きく異なっているのです。
アーティストは経済的に成功したからといって、アートが成功したとは、考えません。ビジネスであれば、売上金額や利益、時価総額などの指標を目安にしなければ、会社経営はできないでしょう。つまりビジネスにおいては、「儲かることが成功である」という基準が成り立ちます。
しかし、アートに求められるのは、経済的・社会的成功ではなく、やむことなき自己探求をし続けることです。社会に対する問題提起、つまり新たな価値を提案し、歴史に残るような価値を残していけるかどうかという姿勢を極限まで追求することが、アーティストの願望なのです。
このように、到達地点が異なるビジネスとアートは一見、まったく異なる世界ですが、ビジネスに関わる人にとって、なぜアートを学ぶべき価値があるといえるのでしょうか。
それでもアートを学ぶべき理由
それは、人間社会の課題が広く、深くなっていく時代において、ビジネスの課題の立て方(ビジネスモデル)も広く、深いものでなければ、息の長いビジネスとして存続できないのではないかと、私は考えるからです。
昨今、アーティストのように思考する「アート思考」が注目を浴びていますが、正直なところアート思考の本来の意味が間違って解釈されているために、アーティストの本来の能力が低く見積もられていることに強い懸念を感じています。
本稿において、アーティストとは何なのか? アートとは何なのか? をひもときながら、ビジネスパーソンが学ぶべき「アート思考」の本質をお伝えできればと思います。
決して、正解が存在するわけではありませんが、私が直島時代からお付き合いしてきた世界的アーティストたちに共通する見方やアートに対する姿勢も含めて、ご紹介することで、世界の第一線で活躍し続けるアーティストの思考を少しでもお伝えできればと考えています。