課題は何かを探っていくための思考法

ビジネスの世界では、これまで「ロジカル・シンキング(論理的思考)」や「クリティカル・シンキング(批判的思考)」がもっとも重視されてきましたが、それだけでは解決できない問題が増え続けています。例えば、資本主義自体のあり方や環境破壊、人種差別や民族紛争など、社会が進化し、テクノロジーが発達しても、社会を覆う問題は山積みです。

このように多くの社会問題を漠然と抱えながら、何が原因で、何が課題なのかも見つけづらい状況が増えています。

事業を通じて社会の課題に答え、問題を解決していくビジネスの世界も、こういった社会問題から無関係でいることはできません。これまで以上に、広い視野が求められ、社会正義に則ったビジネスへの姿勢が求められるでしょう。私のもとにも、アーティストが思考する方法に興味を持つ方々から、講演や取材などのお声がかかることが多くなっています。

本稿でお伝えするのは、単なる問題解決にとどまりません。アーティストのように思考し、イノベ―ティブな発想を得るための感性を鍛える具体的な方法をお伝えします。

つまり、旧来の思考法とは異なるオルタナティブな発想としての「アート思考」を身につけていくための方法論です。

「今、何が問われているのか?」「課題は何なのか?」を探っていくための思考法をアートから得ていくためには、どうすればいいでしょうか。

求められるのは「正しい問い」を立てること

私が館長を務めた、直島の地中美術館と金沢21世紀美術館の両方に作品が展示されているアメリカ人アーティスト、ジェームズ・タレルは「アーティストとは、答えを示すのではなく、問いを発する人である」と述べています。

これからの時代に求められるのは、答えを引き出す力以上に「正しい問いを立てることができる洞察力とユニークな視点」です。

今後、人工知能やロボット、あるいはブロックチェーンといった最新のデジタル・テクノロジーが私たちの働き方や生活を大きく変えていくでしょう。

そのような時代だからこそ、改めて人間のあり方を根本から考えて、将来に向けていかにあるべきかを構想してビジネスを組み立てていくことが求められています。

特に、現代アートは、「現在の人間像について多角的に考えて、未来に向けて、さらなる可能性を持つ新たな人間像を求め、人間の概念を拡大することに挑戦する試み」であるということができます。そう考えると現代アートの思考法には、新しいことに挑戦し、クリエイティブな発想を展開したいと考えるビジネスパーソンにとっても非常に可能性があると思われます。

今日のアートは、旧来のような人間の内面世界を表現するだけのものでなく、テクノロジーやデザインと結びつき社会的な課題に新たな提案を行う、あるいは、現代思想と結びつき次の時代の社会のあり方を構想するといった思考実験の場所でもあるのです。感性に訴えかけると同時に、ロジカルに伝えるコミュニケーション・ツールとして、実社会においても、新たな価値の創造に寄与する存在でもあります。

その出発点となるアート思考は、現状を打開するため、従来とは異なるステージで活躍するために、必要不可欠な視点となります。