能力の高い個人は、往々にして他者に助言や協力を求めない。しかし、自分だけの知識や経験に頼ることは、非効率的なだけでなく、ときには重大な危険をもたらすこともある。

賢明な組織はグループ協議を重視する。グループが協力するとき、その平均的な構成員のみならず、最も優れた構成員より高い問題解決能力を発揮することが、イリノイ大学の心理学博士、パトリック・ローリンらによる調査で明らかになっている。

リーダーは、グループで最も問題解決能力が高いとみなされているため、チームのメンバーに協力を求めないことが多い。また、メンバーは、問題解決の責任をリーダーだけに任せて、決定を進めるために重要な情報をリーダーに提供しないことが多い。

その結果もたらされるのは、お粗末な選択肢、難のある解決策、そして避けられたはずの過ちである。

ローリンは、最も問題解決能力が高い人物でも、単独で取り組んだときにはチームが協力する場合よりいい結果を出せない理由を次のように説明している。

第1に、単独で取り組む場合と複数の人間で構成されるチームで取り組む場合を比べると、後者が知識や多様性の面で圧倒的に優れている。他のメンバーが似通った問題や関連した問題にぶつかった経験があれば、それを共有することで、チームは有益な選択肢と無益な選択肢をより明確かつ迅速に見分けることができる。こうした多様な知識や視点を得ることにより、最も問題解決能力の高いメンバーはより多くの情報と思考プロセスへの刺激を享受できる。同僚の一言によって生産的なアイデアに導かれた経験は、誰にでもあるだろう。

第2に、単独で取り組むということは、「並行処理の威力」という大きな強みを失うことでもある。チームで協力する場合は問題解決に必要な複数の作業をメンバーで分担できるのに対し、単独で取り組むときはそれぞれの作業を順次行わなければならない。そのため、作業にかかる時間が長くなる。そのうえ、それらの作業には調整、調査、事実確認なども含まれているので、その人の能力とエネルギーに余計な負荷がかかることになる。

大発見を阻んだ「頭のよさ」

ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによるDNAの二重らせん構造の発見は、おそらく当代最も重要な科学的成果であり、2人はノーベル賞を受賞した。その発見の50周年を記念して2003年に出版されたインタビューの内容は、本稿で紹介する調査の内容を裏打ちしている。

ワトソンに対するこのインタビューは、2人がなぜ多くのライバル研究者に先んじてDNAの複雑な構造を解明できたのかを探ろうとするものだった。

ワトソンは最初、自分とクリックは研究に没頭していたとか、自分たちの専門分野以外で使われている手法を試すことをいとわなかったという話をした。これらはごく当たり前のことだったが、さらに彼が付け加えた要因は、驚くべき内容だった。2人がDNAのとらえにくいコードを解読できたのは、自分たちがそれを解明しようとしていた科学者のなかで最も頭のよい人間ではなかったおかげであるというのだ。ワトソンによれば、最も頭がよかったのは当時パリで研究していたイギリスの科学者、ロザリンド・フランクリンだった。

「ロザリンドはきわめて聡明だったので、滅多に人にアドバイスを求めることがなかった。集団のなかで最も優秀な人間は難渋することになりがちだ」と、ワトソンは語っている。