「体当たりのパッションプレゼン」の3つの極意とは

あれから8年。各社は、豊田社長が先陣を切った「体当たりのパッションプレゼン」のスタイルへと舵を切っている。その背景には、そうせざるを得ない時代の流れがある。

ソーシャルメディアの隆盛とともに、プレス、メディアという目の前の「車オタク」にレクチャーをする時代から、動画を介して全世界に発信する場へと意義づけが変わってきている。実際に、プレゼン動画をウェブ上で公開する企業も増えており、もはや「プレス限定ブリーフィング」という名称にそぐわない全ステークホルダー向けのコンテンツとなりつつある。

その流れの先にあるのが、グローバルプレゼンの極意の1つ目の「エンタメ化」である。

今までのように、言葉で説明する、教育するといった堅苦しいプレゼンではなく、楽しませる、そして聴衆を巻き込むようなコンテンツへ、つまり、「Explain/EducateからEntertain/Engageへ」という変化の流れだ。

そのシフトの裏には、ネット上に情報があまたあふれる時代に、退屈な「講義」では、耳目を集めることができないし、ファンを増やしていくことはできないという企業側の気づきがある。

「プレゼンやスピーチはね、『フェス』なんですよ」

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安倍晋三首相のスピーチライターを務める谷口智彦内閣官房参与が筆者にこう話してくれたことがある。人は感情で動く生き物。その五感を刺激し、楽しませ、相手を喜ばせてなんぼのものであるということだ。相手の忍耐を試すかのように、「自分が伝えたいこと」だけをとうとうと「朗読」するプレゼンはやるだけ無駄なのである。

「つまらないプレゼンター」ビル・ゲイツの変貌

2つ目の極意は「型を破る」ことだ。

前述のように「型」を重視するのが日本スタイルであるが、想定内のプレゼンほどつまらないものはない。予想を裏切る、驚きを呼ぶプレゼンほど、人々の記憶に残りやすい。例えば、かつては、つまらないプレゼンターとして有名だったビル・ゲイツ。近年では、マラリアの啓発について話す際に、ステージの上で瓶の蓋を開け、中に入れていた「蚊」を放したり、新しいトイレ技術についての話で、「うんち」を容器に入れて、観客に見せたりと、驚きを演出するプレゼンが話題をさらっている。

「秘すれば花」という言葉がある。能の大家、世阿弥の言葉で、一般的には「余計なことは何も言わないほうがいい」と解釈をされがちだが、これは実は全く逆。この言葉の真意は「人が舞台で発見する『珍しさ』」、この感動が花であり『面白さ』である。意外性こそが感動の源だ」ということである。

想定内のプレゼンの中には「花」も「驚き」もない。まるで舞台を見せるように、山場を作り、あっと観客を驚かせよう、ということだ。プレゼンにも、「型」を破り、「予定調和」を崩す度胸が必要とされる時代なのである。