大手メーカー8社のうち7社が「ジョブズ風プレゼン」
筆者はエグゼクティブのコミュニケーションコーチングを生業とし、カンファレンスや見本市をのぞいては、トップの登壇をチェックして楽しむ大のプレゼンマニアである。特に楽しみなのが、2年に1度のこの東京モーターショーだ。
今回、コーチングの仕事で関わらせていただいたこともあり、10月23、24日のプレスデーには、足を棒にして、ほぼ全社のプレゼンを踏破した。
日本では、「結論→理由→事例→結論」「課題→原因→解決法→効果」「ポイントは3つ」など「型」を中心としたプレゼンのノウハウが数多く出回っている。しかし、最も大切なデリバリー(どう伝えるか)のスキルはまだまだ浸透していないのが現状だ。
このため日本人のプレゼンレベルは世界的に見れば、決して高いとはいえない。前々回、前回のモーターショーでも、海外と日本のエグゼクティブの「プレゼン力」には大きな差が見られた。ただ、今回、その差がかなり縮まっているように感じた。
モーターショーでのプレゼンスタイルは、演台の後ろで原稿を読み上げるだけの「教壇型プレゼン」と、ステージ上を動き回りながら、身体全体を使って表現する「ジョブズ風(もしくはTED風)プレゼン」の2つに分けられる。
回を重ねるごとに「教壇型プレゼン」はどんどん減り、今回は見て回った自動車及び部品メーカー20社中8社と初めて少数派に回った。いわゆる大手8社と言われるメーカーでは、実に7社が「ジョブズ風プレゼン」と一気に欧米流が主流になっている。
別に、「教壇型」が悪いということではない。ただ、「演台」が壁となって、聴衆との「空気感」の共有や動きの妨げになり、話し手のエネルギーを届けにくい。だからこそ、アップルやグーグルはじめ、グローバル企業のプレゼンでは、話し手がまるで俳優やミュージシャンのようにステージ上を動き回るパフォーマンススタイルがデフォルトとなっている。
しかし、「教壇型プレゼン」から「ジョブズ風プレゼン」への移行は、実はかなりハードルが高い。演台という「盾」の向こう側で、原稿を読み上げるのと、表情やジェスチャーをつけながら、聴衆という「見知らぬ人々」の前に全身をさらし、その視線を浴びるのとでは、プレッシャーが段違いだからだ。
初代「ジョブズ風プレゼン」はトヨタ自動車の豊田章男社長
日本の経営者として初めてこの「ジョブズ風プレゼン」への本格的な転身を図ったのが、トヨタ自動車の豊田章男社長だ。2011年、震災後初の東京モーターショーでのプレゼンで、両手を大きく広げて、「合言葉は、Fun to drive again! そしてNever give up! です」と叫び、松岡修造氏のようなパッション全開のスタイルを披露した。
しかし、当時、自動車業界の評判は決して芳しいものではなく、「やりすぎ」「わざとらしい」「あの人だから」という冷やかな声も多かった。