興行収入ランキングとまったく違う「ベスト・テン」

掛尾さんの言う“キネ旬らしさ”の説明をしたい。

最初に「キネ旬」は非常にツウ向けの映画誌であると紹介した。どれくらいツウ向けかを知っていただくと“らしさ”がおわかりいただけると思うので、昨年の邦画で、キネマ旬報ベスト・テン(※3)と興行収入ランキングを見比べてみよう。

(※3)1924年度から続いている(戦争で一時中断)映画賞。その年を代表する「日本映画」と「外国映画」を、映画評論家や日本映画記者クラブ員などの投票で選出する。

キネマ旬報ベスト10

人気テレビドラマの映画版や漫画原作など、誰もがその名を知る作品が興行収入ランキングを占める一方、キネマ旬報ベスト・テンは高い作家性を持った小規模作品が大半で、タイトルを見てもどんな映画かわからない人の方が多いかもしれない。そして両方のランキングに入っている作品は是枝裕和監督の『万引き家族』のみ。

この乖離かいりこそが、“キネ旬らしさ”なのである。

「作家性」を気にするような人しか買わない

「興行収入TOP10に『菊とギロチン』や『きみの鳥はうたえる』が入っていないように、キネマ旬報ベスト・テンに入るような作品は、かなりの映画好きじゃないとなかなか見に行かないでしょ。

でもキネ旬が扱う映画はアート系の作品が多いわけで、『映画秘宝』(※4)ともまた違う。

(※4)映画評論家の町山智浩氏らが95年に立ち上げた、洋泉社発行の映画雑誌。扱う作品はアクション大作やSF、ホラーなどが多い。

極端なことを言えば、『コード・ブルー』とか『銀魂』を見る人の多くは、作家性などということは気にしないですよね。だから、そういったマニア向けの情報が載っている『キネ旬』は買わないわけだ。

あとこれは僕がいた時代の話だけど、社員は、給料は安いけれども好きなことができるという意識でやっていたと思う。監督や脚本家と映画について語り合うのが楽しいので、創刊70周年とかの記念号で、皆で分担して広告取りに行こうとなっても、まあ編集部員には不評だった。編集者がやりたいことをやり、それを一定の読者が読むという構造が年とともに縮小していったので、次第に利益は減少する。そして減った分を他の事業で補填することもできないので、儲からなくなるのは致し方ない(笑)」