映画産業の問題に発言していくのが「今、やるべきこと」

「そもそもこの話はキネマ旬報社だけじゃなく、日本の映画産業の今後の話にも通じることですね。

掛尾良夫『キネマ旬報物語』(愛育出版)

今、邦画は大手映画会社が作る大作と、それ以外の小規模作品の2極化が加速している。去年大ヒットした『カメラを止めるな!』が、300万円の制作費で30億円の興行収入を上げたことで話題になったけど、300万円で映画を作るということは、まともな労働環境だったらありえない話。

僕自身、大学で映画を教えているのですが、今、大学で映画を学んで、卒業後、映画の仕事で生活ができる、結婚して子供を育てることができるという環境に進める人はわずかです。卒業後、映画の現場に飛び込みながら、数年後には去っていく人も少なくなく、それを、彼らが根性がないからだと責められない。これでは日本映画界の将来を支える人材は尽きてしまう。

作家性の高い低予算映画と、大手映画会社が手掛ける超大作というパラレルな構造をどうしていくのか。

キネ旬を創刊した若い編集者たちは、活弁不要論だとか、映画業界の問題を誌面で取り上げて提言していた。100年間、映画業界を牽引してきた雑誌だからこそできる発言があると思うし、それこそが今、キネ旬がやるべきことだと思う。僕はそんなキネ旬の誌面が読みたいんですよね」

掛尾 良夫(かけお・よしお)
城西国際大学メディア学部招聘教授・学部長
1950年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。「キネマ旬報」編集長、キネマ旬報映画総合研究所所長、WOWOW番組審議委員、NHKサンダンス国際賞国際審査員などを歴任。現在、和歌山県、田辺弁慶映画祭ディレクター、『デジタルコンテンツ白書』編集委員、京都映像企画市審査員などを務める。
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