NTTの判断により一部のシーンを非公開とされた作品

吉開菜央の「Grand Bouquet」は、中止となっている企画展「表現の不自由展・その後」に通じるところがある。この作品は15分程度の小品であるが、映像中に肉片が飛び散るシーンがあり、身の毛が震えるおぞましさを覚えかねず、また同時に、見ている者の精神を揺さぶる。

この作品は、2018年に東京・新宿の「NTTインターコミュニケーション・センター」(以下ICC)で展示されたが、NTTの判断により「ふさわしくない」と判断されたシーンが公開されず、来訪者は不完全なバージョンしか観ることができなかった。この経緯は作者自身が詳細な記録を発表している。

(c)Nao YOSHIGAI
吉開菜央『Grand Bouquet』2019

今回、あいちトリエンナーレでフルバージョンが公開され、筆者も観覧する僥倖に恵まれたわけだが、本能的な忌避感と圧倒的な美しさがせめぎ合う15分は見る者の感性に挑戦するかのようで、非常にスリリングな体験であった。

なぜ日本の情報通信産業はGAFAに勝てないのか

NTTがこの作品を一部のシーンを非公開としたことは、日本の情報通信産業の限界を感じる。不快な表現、気持ち悪い表現であっても、そこには芸術文化をさらに高める可能性があり、非公開という判断は同社が企業文化活動を「当たり障りのないもので構わない」と考えていることが疑われる。

よく「なぜ日本の情報通信産業はGAFAに勝てないのか」などといわれるが、日本最大の情報通信企業がチャレンジをしていないのではないか、という不信感が増幅される事案だった。もちろんICCがすべての来場者の目に触れる形でこの作品を公開する必然性はない。映像の持つ可能性を知らしめるために、年齢によって区切ると行った「ゾーニング」を行い、来場者とのコラボレーションが図れるような仕掛けを検討すべきであったろう。

なお、2つの作品とも終了後に芸術監督の津田大介を交えたアフタートークが行われた。この仕切りは、ジャーナリスト津田大介の真骨頂を見るかのように素晴らしいものだった。オーディエンスに代わり、アーティストから知りたいことを聞き出し、言葉にまとめていく。

今回、津田についてはキュレーションミスばかりが話題になったが、ジャーナリストとしての力量を生かした場面も数多くあるので、彼のファンは足を運ぶ価値があろう。