企画展「表現の不自由展・その後」の展示をめぐって揺れている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」。現地を視察した観光学者の井出明氏は「作品のよしあしとは別の次元で、観光イベントとしては不十分なところが目立つ。芸術界に『芸術は観光より上』という感覚があるのではないか」という――。(第3回、全5回)
観光としては歩きにくい四間道・円頓寺界隈のスキーム
今回のあいちトリエンナーレは、名古屋市と豊田市の4つのエリアで開催されている。このうち名古屋駅に最も近い「四間道・円頓寺会場」は、街を歩きながら作品を鑑賞することができ、ほかの会場とは趣が異なる。それは名古屋の戦後の復興と大きくかかわっている。
名古屋は戦前から産業都市として名を馳せ、さらに陸軍の第3師団が置かれていた巨大な軍事都市であったため、太平洋戦争では米軍による徹底的な空爆を受けた。名古屋は「焼け野原」となり、戦後はゼロからの復興となった。現在、名古屋市の中心部には道幅が100mある大通りが東西に走っているが、これは復興の都市計画で作られたものだ。一度に渡りきれないほどの横断歩道の巨大さは、戦争の被害を物語っている。
その一方、四間道周辺は空襲から奇跡的に焼け残り、戦後、早い段階で立ち直った地域である。ただ、戦後復興および高度成長の過程において、栄周辺が繁華街としてにぎわいを取り戻し、さらに近年は名古屋駅周辺の整備が集中してなされた。それゆえ四間道・円頓寺界隈については再開発が遅れ、時代から取り残されたような雰囲気がある。
今回のあいちトリエンナーレで、ここ四間道・円頓寺界隈が会場に設定された背景には、この地域の活性化も見込まれていたという。越後正志による「飯田洋服店」は、あえて昭和テイストあふれる空間を作り出し、街の鄙びた風情と作品をシンクロさせている。
さて筆者も徒歩で作品めぐりをしたのだが、個々の作品のよしあしとは全く別の次元で、観光オペレーションとしては問題を感じた(なお、以下に記した論点は、筆者が視察した9月14日時点のものであることをお断りしたい)。