私に言わせれば、株主に事由を説明して透明にする、という条件でいいはずのこうしたことが例外的な不祥事のたびに制度化される。そうなれば幹事会社、監査事務所、東証の審査部などが寄ってたかって形式審査をし、自分たちの付加価値と勘違いする。それだけやりながら犯罪や不正で上場廃止に追い込まれるケースが後を絶たない。つまり、こうした形式基準では本来の目的である資本市場の健全化は達成されていない、ということになる。

このように日本のIPO環境は由々しき問題だ。IPOだけではなく、起業そのものへの意欲が減退し、「寄らば大樹の陰」という傾向が以前にも増して強まっている。政府はしきりに景気対策を強調するが、従来型の財政出動を繰り出して、古い会社を助けるだけでは新しいものは生まれてこない。SOX法の導入や上場審査の厳正化で上場のハードルを上げるよりも、若い起業家を育てるためにもう少しダイナミックにルールを変えていくべきだ。

そして誰も飢え死にしていないのに一律1万2000円もの定額給付をするくらいなら、若い世代の起業支援に回して会社をつくらせたほうが、よっぽど価値がある。

私はこの15年間、BBT大学院大学、アタッカーズ・ビジネススクール(ABS)、大前経営塾など管理職や起業家を養成する学校を運営してきた。ABSでは4000人の卒塾生を輩出。起業を目指す若い世代はアイデアに溢れているし意欲もある。それでも起業できない理由は、当時、株式会社設立の最低資本金1000万円を用意できなかったからだ。

定額給付金の予算2兆円を1000万円で割れば20万。つまり、20万社分の起業を支援できる。起業の成功率は千三つ(1000に3つ)だから、20万社立ち上げて一本立ちできるのは600社程度。それでも十分である。

私が指導してきた若い起業家の成功率は、もう少し高くて6~7%。仮に大前学校の卒業生20万人に支援してくれたら、1万2000社も新しい会社が出てくる。もしそうなれば日本の景色は一気に変わるだろう。