大前研一(BBT)がささやかに1億円で起業ファンドをやっているというのも淋しい話である。この国の将来を真剣に考えているのなら、国も企業も若い世代の起業をもっと大掛かりに手助けするべきだろう。

「年越し派遣村」に集まった人たち全員を救っても、日本は変わらない。だが起業したくても資金が足りなくて悶々としている若い人たちに手を差し伸べれば、日本は必ず変わる。日本の将来・未来にとって、どちらが重要なのかといえば絶対に後者だ。

私はあえて言いたい。たとえ派遣村が100万人に膨れ上がったとしても問題はない。むしろマスコミが、派遣切りや派遣村の問題ばかり過剰に取り上げたため、プライオリティ(優先順位)が完全に狂ってしまっている、と。

NHKはじめ各マスコミの派遣切り報道の偏向ぶりはひどい。マイクが向けられるのは、もっぱら契約を切られて怒っている派遣社員。派遣先企業としては、当初交わした派遣元企業との契約が切れて次の更新をしなかっただけなのに、あたかも弱者を路頭に放り投げた犯罪者のように報じている。

不景気になれば企業が人を切るのは常識だ。そして契約が切れたら自分で次の仕事を探すのも当然のことだ。

そもそも改正派遣法では、半年ごとの派遣を2回繰り返したら正社員にせよと規定している。これはデートを2回したら結婚しなさいと決められているようなもので、これではとても企業は2回目のデートに誘えない。これが今回の派遣切りの実態・本質であり、いわば官製不況なのである。

ところが、マスコミからあれだけ一斉に集中砲火を浴びれば、経営者はモノなど言えなくなる。結局、目先の雇用問題や景気対策ばかりに予算が割かれ、起業支援にはちっとも回らない。私の目には、政治と行政とマスコミが一致団結して、日本を坂道から蹴落とそうとしているようにしか見えないのだ。

(小川 剛=構成)