私自身が直面した上場審査の不条理
私はもともと人材を育成する学校を興すつもりで東京都千代田区にオフィスビルを構え、「Ohmae@work」と名付けた。ビル内にスタジオや教室などの施設をつくったのも、学校運営に役立つと思ったからだ。実際、大学院大学の開校後は、しかるべき対価を取ってBBTに施設を使わせていた。
ところが上場審査の段階でこれが問題になった。私が代表取締役社長のBBTが、やはり私が代表を務める別会社(Ohmae@workを運営する横浜コンサルティング)と取引するのはルール上、まかりならないという。
上場会社の社長が同時に別の非上場会社の代表を務め、2つの会社が取引することは、左のポケットから右のポケットに利益を移転する不正の温床になりうる。これでは上場に際して新しい株主に納得のいく説明はできない──と、幹事証券は言い張るのだ。
NOVAの猿橋望・前社長が同様の手口でIT機器などを売りつけて会社の利益を抜いていたから、ケースとしてありえないわけではないのだろうが、こちらは儲ける気などさらさらない。痛くもない腹を探られて不快指数120%である。
結局、近隣の不動産業者に頼んで適正な賃貸料を算出してもらい、第三者の意見を採り入れ、当面は適正価格で取引するという条件でマザーズ上場はクリアした。
ただし当時、私はほかに3つの会社の代表取締役をしていたが、すべて降りなければならなくなった。いずれの会社も、私が代表取締役だから資金を供出してくれた人もいるわけで、私が身を引くとなれば迷惑がかかる。その人たちに「こういう事情があるので辞任を承諾してください」と頭を下げて回り、すべての手続きが終わるまで、上場を半年ほど延期せざるをえなかった。
今、BBTは東証一部上場を目指しているが、今度はOhmae@workとの関係を絶対に直すようにと東証や証券会社から釘を刺されている。私と縁のない施設を探さなければならないが、授業ができるスタジオ付きの物件など、そうそう見つからない。困った話である。