それでもトランプ政権が発足した2017年1月時点ではNYダウは初めて2万ドルの大台に乗せた程度の水準だったわけで、チャートを見ればトランプ政権の約2年半、一貫して株高傾向が続いてきたことが一目瞭然だ。

このように株高を演出してきたトランプマジックは2つある。1つは大規模な減税だ。

所得税も高所得者層ほど恩恵を受ける

17年12月、トランプ大統領が大統領選中から公約に掲げてきた法人税や所得税の大規模減税を柱とする税制改革法案が米議会で可決・成立した。これはレーガン政権以来の抜本的な税制改革であり、連邦法人税が35%から一気に21%に引き下げられ、所得税も高所得者層ほど恩恵を受ける形で税率が引き下げられた。

「金持ち優遇」との批判もあったが、企業や富裕層をターゲットにした減税は景気浮揚効果が大きい。税引き後に残るお金が大きければ、企業は設備投資や研究開発投資を活発化するし、個人消費も拡大する。景気が良くなれば当然株価は上がる。

一方で現在のサイバー経済においては、昔の重厚長大型の装置産業が方々にプラントを造るような巨大な設備投資は必要ない。基本的には優秀な人間がいれば成り立つのだ。従って減税で浮いた余資を配当資金に回しやすい。配当が増えるから、株が買われる。

もう1つのトランプマジックは金融政策。アメリカの中央銀行制度であるFRB(連邦準備制度理事会)は、アメリカの好景気が続く中でインフレを警戒して金利を上げてきた。

今の時代、世界的に金利が低いから、ドルやユーロ、円など信頼度の高い通貨の金利が高くなると世界中からお金が集まってくる。アメリカの金利が高いと言ってもたかだか2.5%程度だが、それでもゼロ金利の欧州やマイナス金利の日本に資金を置いておくより、安全なドルに替えようという動機付けになる。そうやって世界中から集まってきたお金は米国債に向かわずに、株式をミックスしたETF(上場投資信託)のような金融商品に向かう。それが株式市場にも流れ込んで、株高につながっている。

利上げや利下げを決めるのはFRBの仕事であって、大統領に決定権はない。FRBはきわめて独立性の高い政府機関だ。しかし、トップであるFRB議長の任命権は大統領にある(議会上院の承認が必要)。つまりFRBの金利政策が気に入らなければ、トランプ大統領は得意の「You’re fired!(おまえはクビだ!)」で議長のクビをすげ替えることも可能なのだ。しかし、トランプ大統領はそれをやる前に現FRB議長のジェローム・パウエル氏を徹底的にいじめ抜いている。これがトランプマジックならぬ、トリックなのだ。