念のためその場で管理会社に電話をしたが、やはりオレの後には誰も立ち入っていないという。荷物をぶつけたのかな。

深夜2時に“火の用心”の「カン、カン……」の音

引っ越し疲れのため、少し早いが、22時ごろ床についた。

ここは皆がうなされて出ていくんだよな。てことはこれからオレもうなされちゃうのかな。んなワケねーけどさ。そんなコトを考えていると、急に背中に痛みが走った。ずっしりじわじわと重い痛みだ。重い荷物を運んだせいだろう。こんなことを霊現象にすれば、世界中あちこち霊だらけになってしまう。ふぁ? 寝よ寝よ。

写真提供=鉄人社
部屋の外の様子。拍子木の音がしたが外には誰もいなかった

夜中にふと目が覚めた。聞きなれた音が鳴っている。

カン、カン、カン……

オレの地元、埼玉ではこの時期に毎夜聞こえてくる、拍子木の音だ。“火の用心”のかけ声とともに、有志のおっちゃんたちが練り歩くアレだ。

あ、でもここ地元じゃないんだっけ。都内でもこんな古臭いことやってんだな。何気なく時計を見ると、深夜2時を回っていた。……2時? こんな時間にあいつらが歩いてるワケねーだろ!!

しかし確かに音は聞こえる。それもわりと大きめの音で。窓を開けて外を見た。誰もいない。そして音もいつの間にか消えている。

さすがにビビったオレは頭から布団をかぶり、テレビをつけて気をまぎらわせながら朝を待った。

4人連続で原因不明の「ウツ」状態に

それにしても、この部屋を退去した4人には何が起きたのだろう。4人連続でうなされるなんてどう考えても異常だ。管理会社に電話して、あらためて当時の状況を教えてもらおう。

「もしもし、205号室に入居した建部です。ちょっと聞きたいことがあるのですが」
「ハイハイ。どうしました?」
「僕が入居する前の話なんですけど、4人が短期間で退去していったとか……」
「そうなんですよ。なんか皆さん口をそろえて寝れないとか言っててねぇ」
「原因とかはあるんですか?」
「それがよくわからないんだよね。なんだか気が滅入ってしまったようなコトらしいんだけども」
「気が滅入る? ウツ病みたいな感じなんですかね」
「う~ん。そういうことになるのかな。よくわからないね」

それ以上は“わからない”の一点張りだった。もう騒ぎたてるなってことか。ここらでちょっと話を変えてみよう。

「そういえば205号室のポストだけがなぜか無くなっているんですけど、なぜなんですか?」

豊島マンションは1Fに集合ポストが設置されている。しかしどういうわけだか、オレの部屋205号室のポストだけ扉が破壊され使用できなくなっているのだ。

「あのポストね~。1カ月前くらいからああなってるんだよ。誰かがイタズラしたみたいだね~」
「前に住んでた人は使ってなかったんですか?」
「前の人のときはちゃんとしてたハズだけど。出て行ってすぐ壊れちゃってね」