証券大手のリーマン・ブラザーズに破綻直前まで高い格付けを付与していたことなどから、信頼性が大きく揺らいだ「格付け」。危険な住宅ローン担保証券につけられていたトリプルAの格付けは、ごみ同然の紙切れに格付けという名のリボンをかけたようなものだった。
それ以降、格付け会社に対する批判が高まり、各国で規制強化が行われている。日本でも今年4月から格付け会社が登録制となり、9月末の登録終了の期限が迫っている。その登録に当たっては、格付けアナリストをメンバーとする格付け委員会による格付けや、利益相反行為の防止措置などの体制整備が要件となっている。
アメリカに本社があるスタンダード・アンド・プアーズ、ムーディーズなどについては、日本国内の拠点だけでなく、米本社の登録も求めており、格付け会社側が猛反発している。
そもそも格付けとは、債券のデフォルト(債務不履行)の可能性など投資家が自身で行うべき信用調査をアウトソーシングしているのと同じ。本来、投資家は自分の投資先は自分の労力を使って調べるべきである。そうすることで自分だけが気付く情報を得て、リターンという果実を手にする可能性が高まる。
しかし、調査や分析には手間もコストもかかり、格付け会社の情報に頼ることになる。
格付けは公開情報であり、誰でも知ることができる。トリプルAという高い格付けがつくと、誰もが安心して投資できる対象として信用するようになる。格付けを妄信してしまうわけだ。
人は自分ができないことができる人や、自分より能力がある人の考えを、いとも容易く信じてしまう傾向がある。だからリーマンショックも起きる。格付け会社も、格付け会社のスタッフも神ではない。間違いはある。会計監査で粉飾が見逃されることがあるのと同じだ。
格付けの信用性に関する決定的な問題点は、債券などの発行主が調査・分析を依頼し、格付けに必要なデータを提出すること、またコストを負担するのも発行主であるという点である。中立性を保つ努力はなされているが、決して十分とはいえない。その意味で、ある程度の規制には賛成だ。
さらに提案したいのは、格付けのプロセスを開示し、透明化することだ。収益性はC、成長性はB+、債務(借入状況)はBなど、審査項目と各項目の評価を明示し、すべての項目を総合評価した結果、トリプルBの格付けを付与したなど、格付けの過程を開示する。つまり、格付けの根拠を明らかにするのだ。
そうすることで、情報を受け取る側は自分なりの判断を加えることができる。ある人は、「債務は多いけれど、成長性があるから投資しよう」と判断し、別の人は「成長性はあるが、債務が大きすぎて投資対象として適さない」と考えるかもしれない。
また、監査証明において監査人の名前を記載するように、格付けを行った担当者の名前も公表する、というのも手だろう。
それが実現すれば、格付け情報の利用頻度が高い機関投資家が中心となって、格付けが的確か、そうでないかといった「格付けの格付け」を始める。マネー誌や調査会社などが人気アナリストのランキングなどを公表することがあるが、格付けが正しかったかどうかを審査する仕組みをつくることで、的確な格付けを行う人が評価される。
話は脱線するが、同じように監査証明についても、バランスシートや損益計算書の全科目について、10ページ程度で監査証明の根拠をまとめるのもいい。「債務は多いものの、現預金が10%あるから大丈夫」「在庫が多いが……」など、担当した会計士がどう捉えたかを付記する。
そうすると会計士ランキングも……。監査のレベルを高める意味でも、面白いではないか。
※すべて雑誌掲載当時