日韓両政府が紛争の範囲を誤魔化したことが混乱の原因
また「今後一切請求できない(しない)」「完全かつ最終的に解決された」という清算条項は、その和解契約の対象となった紛争に限ってのことであって、他の紛争についてまで全てを解決するものではないということも重要な法的原則である。これも法律家にとっては当然のことだが、法律家以外には、そのような認識が弱いようだ。
たとえば、たまたま、あなたの友人が交通事故の加害者、あなたが被害者となった紛争を想定してみよう。友人間なので、早く解決したい。だから和解をした。そして最後に「今後一切の債権債務関係は存在しない」「以後何らの請求もしない」「完全かつ最終的に解決された」などの清算条項が入ったとする。
ところが、あなたは、この友人にお金を貸していたとする。そして、この友人が、交通事故の和解の清算条項を基に、交通事故とは無関係のこの借金までもチャラになったと言ってきたらどうするか。
あなたは、「そんなバカな話はない、あの和解の対象は交通事故に関することだけだ!」と怒り狂うだろう。その通りだ。和解契約というものは、そこで対象とした紛争についてのみ効力を発する。他の紛争や権利には何の影響もしない。当たり前のことだ。
だから和解契約を締結する場合には、これはいったい何の紛争について和解をしているのかを当事者間において詳細に確定する必要がある。ここをしっかりやっておかないと、これは和解の対象ではない! いや和解の対象だ! と紛争が蒸し返されるのである。今の日韓関係がまさにそれだ。
1965年の日韓基本条約・請求権協定で和解した紛争とは何だったのか? 実は日韓政府の双方でここを誤魔化したことが、現在の紛争の根本原因となっている。外交官は法律家ではない。だから、国(政府)同士の主張が激突するところを、あいまいな文言で誤魔化してまとめてしまう癖がある。それが「外交技術」だと。しかし、それは紛争を完全かつ最終的に解決させる「法的技術」としては甘い。外交技術による和解契約は、後に紛争を蒸し返すリスクがあり、現在の日韓関係はまさにその状態に陥っている。
もちろん、こじれた国と国との関係をいったん正常化するためには、外交技術による問題の棚上げが必要であることも間違いない。しかしその場合には、後に紛争が蒸し返される可能性があることも認識しておかなければならない。尖閣諸島を巡る問題も、結局は、1972年の日中共同声明や1978年の日中平和友好条約できちんと明記しなかったことが火種となっている。
(略)
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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.166(9月3日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【超緊迫・日韓関係(2)】日韓請求権協定で油断をすると足元をすくわれる》特集です。