限度時間を超えて1人でも働かせると刑罰の対象

その困窮ぶりをリポートする前に、今回の法律の「上限規制」の内容を簡単におさらいしておこう。

残業時間の限度時間は原則として月45時間、年360時間。ただし、臨時的な特別の事情がある場合、労使協定を結べばそれ以上働かせることができるが、上限がある。

労使協定を結んだ場合の具体的な上限は……。

(1)年間の時間外労働は720時間以内
(2)休日労働を含んで、2カ月ないし6カ月平均は80時間以内
(3)休日労働を含んで単月は100時間未満
(4)原則の「月45時間」を超える時間外労働は年間6カ月まで

――という制限を設けている。限度時間を超えて1人でも働かせると刑罰の対象になる。

とくに厳しいのが(4)の「月45時間」が年6カ月しか使えないことだ。週2日の会社なら月の出勤日は22日。1日平均2時間しか残業できないことになる。

そうでなくても新年度の4月、株主総会時期の6月、半期決算の9月、年末、年度末決算の3月など会社によって繁忙月が必ずある。「月45時間」超で7カ月働いた社員が1人でもいれば、労基法違反となり、罰則の対象になる。

また(1)の年間の残業時間の上限が720時間だと、月の平均は60時間までとなる。60時間を超える人はどれだけいるのか。

写真=iStock.com/stockstudioX
※写真はイメージです

10人に1人が「時間外労働の上限規制」違反予備軍

エン・ジャパンの「企業の『時間外労働の上限規制』実態調査」(2019年6月5日発表)によると、従業員数300~999人の企業では61~80時間が9%、81~100時間が1%の計10%。つまり、ひとつの会社に30~100人程度の法違反予備軍が存在することになる。

その人たちをどうやってあぶりだすのか。最初に思い浮かぶのは社員が申告した残業時間だが、これは当てにはならない。なぜならサービス残業をしている可能性があり、もし労働基準監督署にばれたらサービス残業を含めた残業時間の合計で摘発されるからだ。

建設関連業の人事部長は2つの方法で実際の残業時間を把握していると語る。

「ひとつはIDで管理している入館・退館記録です。入口付近には監視カメラをつけているので誰が何時に会社に来て、帰ったかを確認できます。もうひとつはパソコンの起動時のログイン・ログオフの記録です。昔はタイムカードがありましたが、退社記録を印字してから残業する人もいるので役に立ちません」