長時間残業の“常習者”はほとんどが同じ人だった
ではどうやって残業の実態を把握するのか。この人事部長は今年4月の法律施行を前に次のことを実施したという。
「まず、申告した残業時間が60時間以上を超えている社員をリストアップします。次に、申告時間が60時間を超えていなくても、入館・退館記録やログイン・ログオフの記録で60時間を超えている社員を調べます。すると、残業の有無は別にしても社内に長くとどまっている人が相当数いました。所属長に何のために会社に残っていたのかを問いただし、残業していなのであれば早く帰るように指示を出しました。数カ月かけてチェックしていると、長時間残業の常連はほとんどが同じ人であることがわかりました」
その結果、60時間超えの社員を「要注意人物」に指定し、法違反を犯さないか、今も監視しているという。
「少しでも制限時間を超えそうになると、上司を通じて警告を発し、どんなことがあっても会社を出るように言っています。要するにモグラたたきです。そうやって一人ひとりをつぶしていかない限り、法律をクリアできません」(人事部長)
上司は昔風の仕事大好きのモーレツ社員……
一方、人事部だけで多くの社員の監視には限界もある。食品メーカーでは「内部監査部」が長時間労働社員の撲滅に乗り出している。同社の法務部長はこう語る。
「本社だけではなく、食品安全管理の観点から各工場にも入館ゲートを設置しています。いつもなら不審者の入場などをチェックしていますが、今年4月からは人事部と協力し、内部監査部が長時間、社員の入・退館記録をチェックしています。労働基準法違反というコンプライアンスの観点から違反者を出さないためです。会社が決めた残業の制限時間を超えて働いていた場合、それを見逃していた上司も管理責任が問われるという厳しい姿勢で臨んでいます」
だが、そうやって屋内の“仕事大好き人間”の残業を封じることができたとしても、屋外で働く営業職や地方の工場や支店などの監視は難しい。住宅建材メーカーの人事部長は不安を隠さない。
「じつは数年前に地方の工場で月100時間以上の残業をしている社員がいましたが、労基署の臨検を受け、是正勧告を受けたことがあります。もちろん責任者の工場長は役員会議で厳しい叱責を受けましたが、解任されていません。工場長は昔風の仕事大好きのモーレツ社員です。工場の統括安全衛生管理者でもあるのですが、そういう自覚が乏しい人。同じようなことが起きないように人事部員が出張してチェックしていますが、煙たがっている様子ですし、組織ぐるみで残業隠しをしないか不安です」
本社出身の工場長や支店長は地方での実績を上げて本社の枢要ポストに就きたいという上昇志向の人が少なくない。仕事大好き人間の典型的なタイプだが、こういう社員に限って部下に犠牲を強いる人も多い。