帰らないおじさんには2つの理由がある
多くの会社が「働き方改革」を進めようとしていて、社員に早く帰ることを促しています。ところが、中高年の社員の中にはなかなか帰りたがらない人もいます。とくに仕事が立て込んでいるというわけでもありません。若手社員からすれば「仕事もないのに、どうして帰らないの?」と不思議でしかないでしょう。
帰りたがらない社員が自分の上司だとなお厄介です。私がパーソル総合研究所と一緒に行った共同研究の調査結果の中に「上司の残業時間と帰りにくさの関係」があります。上司の残業時間が長くなると部下が帰りにくくなる傾向があることが分かりました(図表1)。
家に早く帰って家事や育児、趣味に時間を使いたいと思っている若手には、帰りたがらないおじさんは迷惑でしかありません。どうして帰らないのでしょうか。
はっきりとした理由が2つあります。1つは高度経済成長時代に習得した役割分担が今も続いていることで、もう1つは残業代が前提となっている家計システムです。
帰りたくても帰れない
まず、役割分担から説明します。男性はゴリゴリと働いて、女性は専業主婦として家事・育児を担うというライフスタイルが高度経済成長期に確立します。男性の長時間労働を前提とし、お父さんが家に帰ってこなくても家事・育児が回ってしまう形が出来上がっているので、お父さんは早く帰ってもすることがありません。つまり、お父さん抜きでも、家庭が動くように、家族内の役割分担が最適化されているのです。別の言葉をつかっていえば、お父さんぬきでも、家庭がまわる仕組みを、家庭が「組織学習」している。組織のなかの定型作業として、組織が記憶してしまっている、といえます。そして、いったん、組織学習が進んだシステムは、非常に「強固」です。突然、お父さんが帰ってきても、居場所がなかなかつくることができないのは、それが理由です。
次に家計システムについてです。長時間労働している人だと毎月7万~8万円の残業代が稼げ、それを前提とした家計システムが組まれています。とくに残業代を当てにして住宅ローンを組んでいたり、子どもの教育費を払っていたりする家庭では、残業代が減ると途端に困ってしまいます。
この2つの理由があるので、お父さんが早く帰ってこなくても、家庭は動いてしまうのです。あるいは、何時間か残業してくれたほうが嬉しいという家庭も存在するかもしれません。会社は帰れと言うけれど、家には帰れない。そんな事情がたくさんのフラリーマンを生み出し、新橋あたりで一杯飲むことになるのです。