「知識とは、常に使えるものをいうんです。使えない知識を溜め込むのは、自分を安心させる材料くらいにしかならない。置いてけぼりを食ったような知識は、慣れ以外の何物でもない。単なる習慣なんですよ。でも、そこに安らぎを覚えてしまう。それが習慣づいてしまうと、取り除くのは容易ではありません」
恐ろしいことなんです、と言葉を繋ぐ。
「時の流れだとかいろんな情勢の流れに対して、個人が守り切れるものはほとんどありません。それは守っているんじゃなくて、流されてるだけ。勘違いですよ。守りは、攻めに繋がってなければ意味はありません」
社員一人一人が持つべき姿勢
その知識・情報も、100人が100人肯定するものは疑ってかかるという。中野氏は、気になる情報があれば自ら確かめるそうだが、それは経営者のみならず、社員一人一人が持つべき姿勢だという。
「僕が最も恐れるのは、先頭を行く者を疑わずにつき従う体制・体質です。それだと、経営者が判断を誤れば、会社は総崩れになってしまう」
個々が考え続けていれば、満場一致などありえない。あるとすれば、それは課題を真剣に考えず、現状に慣れ、流されている人が少なからずいることの表れだ。だから、中野氏は経営上の判断をする場合は、賛否6対4でジャッジする。
「ビジネスには当然、失敗もあります。しかし、そのときに重要なのは、巻き返しができるかどうかです。それは、トップの意向に対して『これで本当に大丈夫なのか』と疑問を持ち、真剣に考えてきた人間が、どれだけいるかにかかってくるんですよ」
経験上、賛成多数のプランは、失敗することのほうが多く、逆に100人のうち2、3人でも、夢中になって取り組む社員がいるプランは成功するという。
インターネットから情報が簡単に手に入る時代である。それらを無警戒に受け入れている人、再発信する人が多いことを、中野氏は懸念する。それは、先を行く人に無責任に従うのと同じく、危険なことなのだという。
「知識の習得も、業務についてもそうですが、僕はやみくもに頑張ることがいいとは思っていません。頑張りも7分がけくらいが適当かな。人間、いっぱいいっぱいでは、新しいものを生み出せないし、正確な判断や発想の転換も難しくなる。余白を持っておくことも大切です」
この19年6月に寺田倉庫を辞した中野氏は、東方文化支援財団(仮称)の設立に着手した。東アジアの文化をもう一度見直し、今日的に進化させる次世代の取り組みを支援していこうというもの。ひと所に安住せず、瞬間、瞬間に真剣に考え、動く――中野氏はその持論のままに日々行動しているようだ。
使えぬ知識からは「安心」しか得られない
時間は断片的なもの。一瞬に集中しよう
夢中になれる「新しいこと」を探せ
情報を無警戒に受容・再発信するな
1944年生まれ。千葉商科大学卒業。伊勢丹、鈴屋を経て97年台湾に渡り、力覇集団百貨店部門代表、遠東集団董事長特別顧問・亜東百貨COOを歴任。2011年寺田倉庫入社。12年CEO。19年6月26日退社。