知識は豊富でも、話すと残念な人
「慶世羅せら」。銀座の「クラブ由美」のVIPラウンジには、こう揮毫された一枚の書が壁に飾られている。ケセ・ラ・セラ(なるようになるさ)――元首相で、現在は陶芸家にして画家・書家の細川護熙氏が書いたものだ。
「私の生きる心意気を表した素敵な言葉ですが、これを書いてくださった細川の殿のような方が、本当に教養のある人だと思いますね」と話すのは、銀座で36年の歴史を持ち、政財界の重要人物が集う「クラブ由美」の伊藤由美ママだ。
「クラシックがお店で流れたときに『シューマンの曲だよね』と自然に曲名を口にされるお客様がいらっしゃいます。ご両親がクラシック音楽を好まれ、幼少の頃から聴かれていたそうです。細川の殿も『子どものときから名作を見られる環境に育つと本物を見極める目が養われ、いい作品がつくれるんです』とさりげなくおっしゃって気取りが感じられないのです。学歴と関係なく教養のある人は、育ってきた環境や生き方が影響しているのではないでしょうか」
細川家のような大名家に生まれるわけにはなかなかいかないが、教養を「幅広い知識」くらいに考え、難しい本をたくさん読み、懸命に勉強して、多量の情報をインプットしてみても、一夜にして教養は磨かれるわけではないということだろう。知識は豊富だけれど話してみると残念な人も多い。本当の教養とは、学問・知識などによって培われる品位や立ち居振る舞いといった人の内面までも表すものだ。
「銀座のクラブ」といえば、欠かせないのがお酒。人間の本質が表れるのもこのお酒の席だ。長年お酒を提供する場で人と接してきた由美ママが痛切に思うのは、「お酒の飲み方や酒席での立ち居振る舞いに、人間としての素の部分がそのまま表れることです。普段は品性に欠けていても、酔ったら品がよくなるといった人には、まずお会いしたことがありません。お酒を飲むときの品位とも言っていい『酒品』は、その人の本来の姿でもあるでしょう」と指摘する。