大坂なおみの「意外な質問」とは?
なおみはよく私のところにきて、言ったものである。
「ねえ、ちょっと聞いていい?」
いったい何を言いだすのか、こっちは皆目見当がつかない。なおみはときどき、とんでもないことを聞いてくるからだ。でも、なおみの質問はいつでも大歓迎だった。その前に自分でも考えたあげくの問いかけであることが、わかっていたからである。
なおみの質問は、単純なものもあれば複雑なものもあった。テニス関連のものもあれば、人生一般に関するものもあった。度肝を抜かれるようなことを聞いてくることもあるので、次にどんなことを聞かれるか、予想もつかなかった。聞くタイミングもそうで、思いもかけないときに思いもかけないことを聞いてくる。
たとえば、「このエクササイズ、20回じゃなく、12回じゃどうしていけないの?」とか。
メルボルンの練習コートで打ち合っていたときには、途中、急にプレイを止めて、「ねえ、ちょっと教えて」と問いかけてきた。てっきり、打ち合いに関するテクニカルな質問だろうな、と思ったら、とんでもなかった。
「あのナダルだけど、彼はこういうコートで練習できるのかな?」というのだ。男子テニスのトッププレーヤー、ラファエル・ナダルはベースラインの背後数メートルの位置でボールを打つことを好む。としたら、このコートみたいにベースラインの背後に余裕がなかったら、窮屈すぎるのではないか、というわけである。
「うん、そうね、たぶん、無理だろうな」と応じてから、私はすぐに切り返した。
「でも、ぼくらはこのコートで十分なんだから、さあ、練習を続けてもらえるかい?」
なおみはにこっと笑うと、すさまじい集中力を見せて、ものすごいボールを打ってきた。
人に問うことは弱さを見せることではない
一方、私は私でなおみに聞きたいことはいろいろとあった。質問はコーチングの最良の方法なのである。何かを「上から目線」で講釈するよりも、相手に何かを問いかけて、相手に考えさせる。その結果、相手が正しい答えにたどり着けば、これほど素晴らしいことはない。なおみに、ああしろ、こう考えろ、と押しつけるような独裁者には決してなりたくなかった。
テニスプレーヤーはもともと頑固な人種だ。命令を一方的に押しつけられるのを好まない。それよりも、「自分で何かに気づいた」「何かを考えついた」と自覚できたほうが満足できる。そのとき考えついたことは深く心に刻まれて、長く記憶に留まるものなのだ。私は過去、人に助けを求めるのをためらうほうだったので、いまは人にいろいろと質問することが楽しい。人の役に立てるとき、私はいちばん嬉しいのだ。
人に問いかけ、物を教えてもらうのは、自分の弱さをさらすことではない。むしろ、強さを示すことなのだ。そのときあなたは、真っ正直な自分を示しているのだから。