球数は少なくていいから、考えて打て
上達の鍵はフォーカスにある。鍛えたい技を絞りこめば絞りこむほど練習の成果も上がるはずだ。
練習でフォーカスを行わず、漫然と同じことをくり返していると、いざというときに的確な対応ができない。ステージで聴衆の前に立ったり、重役たちを前にプレゼンをしたり、テニスコートで前チャンピオンと対峙したり、といった肝心の場面で、実力を発揮できない。
「練習ではとにかく球数を多く打て」と教えるテニスコーチがいる。私は、「打つ球は少なくていいから、実戦で予想されるシーンに対応した球を打て」と教える。また、練習で疲れて集中力が途切れたら、無理せずに休んだほうがいい。無理をつづけて悪い習慣ができるより、そのほうがずっといい。
フォーカスは、必ずいい結果をもたらす。一緒に練習に励んでいるうちに、なおみのフォーカスが的確になって、相乗効果で持続力が増していくのが、見ていて嬉しかった。集中力が持続できて初めてグランドスラムや世界ランク1位の座も視野に入ってくる。
なおみの場合、すべては、熱い応援をしてくれる観客が一人もいない練習コートではじまった。何かを達成したいと思う人間なら、誰しも同じだろう。
質問する人ほど強い
スキルを伸ばすのにもう一つ有効な方法が、「質問」である。
無知はメンタルの成長を阻む。すること、見るもの、すべての意味を問いただそう。自分のしていること、のみならず、自分を取り巻く世界、取り巻く人々についても、好奇の眼差しを向けよう。
好奇心とは、あなたのメンタルが急速な成長をとげようとしている何よりの証しである。それは、学びたいという情熱の代名詞でもあるのだから。
惰性に流されて仕事をしたくはない。
自分は何をしているのか、なぜそれをしているのか、どうやってしているのか、それがどんな助けになるのか。その答えを常に求めながら、仕事を進めたい。その仕事が自分の公私の暮らしにどんな意味を持つのか、はっきりつかんでさえいれば、困難に直面しても耐えることができる。
周囲の人間に物をたずねるには勇気がいる。自分の無知を明かすことでもあるのだから。だが、それは同時に、自分が柔軟な心の持ち主で、学ぶ意欲を持っていることをも、明かすことになる。それは周囲の敬意を勝ち得て、みな温かい協力の手を差し伸べてくれるにちがいない。