(3)どうやって身に付ければよいのか?

出口▼「エピソード」ではなく「エビデンス」で物事を見る

僕は教養を「知識」×「考える力」と定義しましたが、これから考える力のウエートがますます高まります。比率は3対7が2対8になり、1対9になって、より考える力を鍛えることが求められる。その力を養う1つの手法が、「エピソード」ではなく「エビデンス」で物事を判断することです。

先日、友人がヨーロッパ遊行から帰ってきて、一緒に飲んでいたら、「やっぱり日本人は優秀やな」と語りはじめました。僕が「なんでや?」と聞くと、向こうの百貨店では店員はニコリともしないし、商品を包んでもくれないというのです。確かに日本の百貨店ではどこに行っても、店員はにこやかで、商品をきれいにラッピングしてくれます。これはエピソードです。

エビデンスで考えてみましょう。友人が買い物をしたのはパリの有名百貨店「ギャラリー・ラファイエット」でした。フランス人のここ20~30年の年間労働時間は1300時間程度。その労働時間で経済は2%成長しています。同じ期間、日本人は年間2000時間働いて1%成長したにすぎません。日本の百貨店の店員は優秀かもしれませんが、それが生産性の向上に結び付いていないわけです。エピソードは自分の都合のいいように結論付けることができます。エビデンスで物事を判断しないと、全体像が正しく見えてきません。

常識を疑うクセを付けることも考える力を養ういい方法です。これもお酒を飲んでいるときの話です。ある大企業の役員が「最近の若者はわがままや。転勤が嫌やと言う。こんなんじゃ日本の未来は暗い」と話したので、僕は酔った勢いで「キミみたいなのが日本をダメにするんや」と言い放ってしまいました。その役員にとって、家は帰って寝るだけの場所。でも、若い社員は地域のサッカーチームで子どもたちにコーチをしていたり、パートナーが仕事を持っているかもしれない。

結婚している社員のパートナー全員が専業主婦(夫)だとは限りません。会社が社員の都合を聞かず意のままに転勤させるのは、社員と地域やパートナーとの関係を一切無視した非人間的な発想です。その役員は「希望者だけ転勤させたら過疎地やへき地へは誰も行くやつがおらん」と反論してきました。僕は「過疎地は何で困ってるんや。仕事がないからやろ。転勤に頼らず、現地で社員を中途採用したら、お前んとこの会社、人気出るで」とアドバイスしておきました。どこへでも転勤する社員が偉いなどという常識はごく狭い世界の中での見方にすぎません。それを喝破する力を付けることが教養を磨くということです。